フリー介護士

旅行の付き添いを仕事として受けるとき、旅行業の登録はどこまで必要か

列車の窓際に座る高齢の女性と、隣で付き添う女性の後ろ姿 フリー介護士

「旅行に付き添ってもらえませんか」

介護の仕事を個人で受けていると、この依頼はいずれ来ます。

温泉に行きたい、娘の家に行きたい、最後に一度あの場所を見たい。

介護保険では叶えられない希望です。

受けたいと思う一方で、気になることがあります。
これは旅行業の登録がないとやってはいけないのではないか。

調べると、出てくるのは旅行業の登録を持っている事業者のページばかりです。

「当社は旅行業登録のある事業者として」と書かれています。
資格の記事を読むと、旅行介助士やトラベルヘルパーといった民間資格の紹介が並びます。

どちらも「必要です」と書いてありますが、個人で介護の仕事を受ける立場で、登録なしにどこまでやっていいのかは書かれていません。

結論から書きます。

付き添うこと自体に、旅行業の登録も資格も必要ありません。

ただし、宿泊や交通機関の手配に踏み込むと話が変わります。
その線がどこにあるのかを整理します。

 

旅行業になるのは、この2つがそろったときです

観光庁の説明では、報酬を得て一定の行為を行う事業を営む場合に、旅行業の登録が必要になります。

日本旅行業協会の解説では、要件がもう少し具体的に示されています。

  • 報酬を得ていること
  • 事業として行っていること(同種の反復継続的な行為であること)

逆に言えば、報酬を受け取っていない場合や、一回きりで反復継続性がない場合は、旅行業にあたりません。

ただ、私たちは報酬をいただいて、繰り返し仕事として受けるつもりで動いています。
ですからこの2つは満たします。

問題になるのは「一定の行為」に何が含まれるかです。

 

線はここにあります:運送と宿泊を扱うかどうか

ここが今回の記事で一番お伝えしたいところです。

旅行業法の施行要領には、こう定められています。

運送または宿泊以外のサービスについては、
運送または宿泊サービスに付随して行う場合に限り、旅行業務になる。

読みにくい書き方ですが、意味は明確です。

運送と宿泊が土台になっていて、
それ以外のサービスは、その土台に乗っているときだけ旅行業務として扱われます。

つまり、運送も宿泊も扱わなければ、付き添いは独立したサービスであって、旅行業務になりません。

行政書士の解説には、分かりやすい例が挙げられています。
現地集合・現地解散の日帰りトレッキングガイドは、運送も宿泊も伴わないので旅行業務に該当しません。

介護の付き添いに置き換えると、こうなります。

  • 現地で合流して、付き添って、現地で解散する ―― 旅行業にあたりません
  • お客様の代わりにホテルを予約する、新幹線や飛行機を手配する ―― 旅行業にあたる可能性があります

付き添いという行為そのものが問題なのではありません。
誰が宿と交通を手配したかで変わります。

 

実際の案件が、なぜ線を踏まなかったのか

川崎で活動している森田さん(仮名)が受けた仕事を紹介します。

依頼は、軽井沢の別荘に1週間滞在するお客様への付き添いでした。

居宅介護支援事業所を回っていたところ、ケアマネジャーから「こんなのできる?」と声がかかった案件です。

大手も含めていくつか見積もりが出たなかで、一番安かったので選ばれたと聞いています。
報酬は40万円ほどでした(あくまで一例です)。

この案件は、旅行業の線を踏んでいません。理由が3つあります。

ひとつは、滞在先がお客様自身の別荘だったこと。
宿泊施設を手配する必要がありませんでした。

ふたつめは、移動がお客様自身の車だったこと。
東京から軽井沢まで、森田さんがその車を運転して往復し、滞在中の移動もすべて運転しました。

新幹線や飛行機、レンタカーを予約したわけではありません。
交通機関を手配する場面が発生していません。

みっつめは、森田さんが提供したのが介助だったこと。
日中の生活の支援と、結果的に夜間の介護も含まれる形になりました。
宿と交通を売ったのではなく、自分の時間と技術を売っています。

並べてみると、この案件は偶然ではなく構造として線の内側にあります。

宿はお客様のもの、車はお客様のもの、こちらが出したのは自分の身体と時間だけ。
この形であれば、旅行業の登録は関係ありません。

もうひとつ付け加えると、森田さんはこの案件を受けたとき、まだ旅行介助の資格を持っていませんでした。

資格は後から取っています。
資格がないと受けられない仕事ではない、ということです。

資格を取ると変わるのは、旅行会社に登録できるようになる点です。
旅行会社に個人から入った予約について「この方の付き添いをお願いできますか」と声がかかるようになります。

仕事の取り方が増えるという意味では有効ですが、付き添いを始めるための条件ではありません。順番を間違えないでください。

 

線を越えると、どうなるのか

ここは軽く書きません。

登録を受けずに旅行業を営んだ場合、旅行業法第74条により、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはその両方が定められています。
旅行業法のなかで最も重い罰則です。

「よかれと思って代わりに予約してあげた」が、ここに触れる可能性があります。
お客様のためにやったことでも、報酬をいただいて反復継続して行っていれば、事業としての手配です。

怖がらせたいわけではありません。

付き添いだけなら明日からできます。
ただ、手配まで引き受けるかどうかは、軽く判断してはいけないところだということです。

 

よくある誤解:「手配業を取ればいい」ではありません

この話をすると、「旅行サービス手配業という登録があるらしいので、それを取ればいいのでは」と考える方がいます。
私も一度そう理解していました。

ですが、観光庁の説明を読むと、旅行サービス手配業は「旅行業を営む者のため」に運送・宿泊の手配を行う事業とされています。

つまり、旅行会社の下請けとして手配を担う立場の登録です。
お客様から直接依頼を受けて手配する場合の受け皿ではありません。

ここを取り違えて、手配業の登録だけで個人のお客様に手配を提供し始めると、無登録営業のリスクが残ったままになります。

 

では、実務ではどうすればいいのか

踏まないための選択肢は3つあります。

1. 手配はお客様・ご家族にしていただく

一番シンプルで、すぐできる方法です。
宿と交通はご本人かご家族が予約し、こちらは付き添いだけを請け負います。

「どこがいいでしょうか」と相談されることはあります。
旅行に関する相談に応じる行為も旅行業務に挙げられているので、報酬をいただいて相談業として行うなら注意が必要です。

ただ、付き添いの打ち合わせのなかで一緒に考えるのと、手配を代行して報酬を得るのは別のことです。
予約の名義と支払いを、こちらが持たないようにしてください。

 

2. 旅行業の登録がある会社と組む

森田さん(仮名)も検討していた方法です。

旅行業を持っている旅行会社の枠組みに入り、手配はその会社が行い、こちらは付き添いを担当します。
宿泊や交通機関の手配が避けられない案件では、これが現実的です。

 

3. 旅行会社に登録して案件を受ける

旅行介助の資格を取ると、添乗員派遣会社や旅行会社に登録できます。
旅行会社が受けた予約に対して付き添いの依頼が回ってくる形です。

手配は旅行会社が行うので、こちらは介助に専念できます。

営業を全部自分でやる必要がなくなるので、始めたばかりの時期には現実的な選択肢です。

フリー介護士と旅行する高齢者夫婦

 

車の話は、旅行業法とは別の法律です

ここが混ざりやすいところなので、分けて考えてください。

先ほどの案件で森田さんは車を運転していますが、これは旅行業法の「運送の手配」ではありません。

手配とは、お客様と交通機関のあいだに入って予約や契約を取り持つことです。
運転そのものは手配ではないので、旅行業の登録の話にはなりません。

ただし、車を出すこと自体には道路運送法という別の規制があります。

国土交通省と厚生労働省が連名で出している介護輸送に係る法的取扱いについてでは、訪問介護員等が自己の車両で要介護者等を有償で運送する場合について、道路運送法第78条第3号にもとづく許可を受けることができる、と整理されています。

つまり規制の対象としてはっきり書かれているのは、自分の車を出して有償で運ぶ場合です。
今回のようにお客様自身の車を運転する場合は、この文書が想定している形とは異なります。

ここは判断が分かれうるところです。
実務では問題にならないと言われている形ではありますが、「言われている」と「確認した」は違います。

継続して車の運転を引き受けるのであれば、管轄の運輸支局か、この分野に詳しい専門家に一度確認してください。

あわせて、お客様の車の任意保険が、ご家族以外の運転を対象にしているかも必ず確認が必要です。

運転者や年齢を限定する特約が付いていると、事故のときに保険が使えません。
お客様の車なので、こちらではどうにもできない部分です。

確認の仕方はシンプルです。ご家族に任意保険の保険証券を見せていただき、「家族限定」や「運転者の年齢条件」が付いていないかを、証券の記載で直接確かめます。

口頭で「大丈夫です」と言われるだけでは足りません。
実際にこの形で仕事を受けている人は、毎回この確認をしています。

自分の車を出す場合の線引きは自家用車での送迎が違法になる場合に整理しているので、車を出す前に読んでおいてください。

 

そもそも、介護保険では旅行に付き添えません

なぜこの仕事に依頼が来るのか、という話をしておきます。

介護保険のサービスでは、旅行の付き添いはできません。
制度の枠から外れるためです。

視覚障害のある方の同行援護でも、宿泊を伴う外出は対象になりません。
同行援護では宿泊ができないという壁に、現場でぶつかった方は多いと思います。

行きたい場所があるのに、制度が対応していない。
実際にどんな依頼が来るのかを読んでいただくと、この需要が特別なものではないことが分かります。

だから、個人で受ける人のところに話が来ます。
供給が足りていない領域です。

 

まとめ

  • 付き添うことに旅行業の登録は要りません。
    運送・宿泊以外のサービスは、運送・宿泊に付随する場合に限り旅行業務になるためです
  • 宿泊や交通機関の手配を引き受けると、旅行業にあたる可能性があります。
    無登録営業には1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金が定められています
  • 「旅行サービス手配業」は旅行業者のための登録です。
    お客様から直接受けて手配する場合の受け皿ではありません
  • 資格は始めるための条件ではありません。
    資格があると旅行会社に登録できて、仕事の取り方が増えます

手配を持たなければ、付き添いは明日からできる仕事です。

まずは現地で合流して現地で解散する形から始めて、宿と交通はご本人やご家族に持っていただく。
それだけで線の内側に留まれます。

 

よくある質問

Q. 旅行の資格を持っていないと、泊まりで旅行に付き添うことはできませんか

できます。法律上、資格は必要ありません。

ここで大事なのは、泊まりかどうかは判断の基準ではないということです。
旅行業になるかどうかは、宿泊の有無ではなく宿と交通を手配したかどうかで決まります。

1泊でも1週間でも、手配をしなければ旅行業務になりません。
逆に日帰りでも、報酬をいただいて交通機関を手配すれば旅行業にあたる可能性があります。

介護の中身についても、法令上の資格要件はありません。
介護保険のサービスとして提供する場合は初任者研修などの要件がありますが、介護保険を使わない自費のサービスには、法令上の資格要件がありません。

ただし医療行為はできません。ここは資格の有無に関係なく変わりません。

 

旅行介助士という資格について

「旅行介助士」は、2019年に一般社団法人日本介護旅行サポーターズ協会が創設した民間資格です。

協会のページによると、養成講座は3日間で55,000円。国内旅程管理主任者などをすでに持っている場合は割引があります。

民間資格なので、これがないと付き添えない、というものではありません。

ただし、この資格には注目すべき点があります。
受講すると「国内旅程管理主任者」が同時に取得できることです。
こちらは旅行会社が主催する企画旅行に添乗員として同行するために必要な資格です。

つまり旅行介助士は、自分で直接お客様から依頼を受けるための資格ではなく、旅行会社の仕事を受けられるようになるための資格だと考えると分かりやすいです。

同じような民間資格に「トラベルヘルパー」などもありますが、位置づけは似ています。

取る価値がないという意味ではありません。
順番の問題です。

付き添いは資格がなくても今日から受けられます。
仕事の入口を増やしたくなった段階で検討するもの、と考えてください。

 

Q. 旅行サービス手配業は、結局「旅行会社の下請けになれる」という意味ですか

そのとおりです。
お客様から直接依頼を受けて手配できるようになる登録ではありません。

旅行サービス手配業の解説には、こう明記されています。

旅行サービス手配業者は旅行業者の依頼に応じてサービスを提供する点が特徴で、旅行者と直接のやり取りは行わない。

つまり、依頼を出してくるのは旅行会社であって、お客様ではありません。
ランドオペレーターと呼ばれる立場です。登録は都道府県知事に対して行います。

ですので、整理するとこうなります。

  • お客様から直接依頼を受けて、宿や交通を手配したい ―― 旅行業の登録が必要です。手配業では足りません
  • 旅行会社から依頼を受けて、宿や交通の手配を担当したい ―― これが旅行サービス手配業です
  • 手配はせず、付き添いだけを受けたい ―― どちらの登録も要りません

「手配業を取れば手配できるようになる」と理解していると、方向が違うほうに進んでしまいます。ここは間違えやすいところです。

 

Q. 旅行の案件をもらったとき、最初に何を確認すればいいですか

依頼の話が来た段階で、この3つを確認してください。

1. 宿と交通は、誰が予約するのか

これが一番大事です。ご本人かご家族が予約するなら、旅行業の話は発生しません。
「こちらで取っておきましょうか」と言いたくなる場面ですが、そこで引き受けると立場が変わります。

判断に迷ったら、予約の名義と支払いが誰になっているかを見てください。
こちらの名前で予約し、こちらがいったん支払って後で請求する形になっていたら、手配をしていることになります。

2. 移動に車を使うのか。使うなら誰の車か

車が絡むと、旅行業法とは別に道路運送法の話になります。
自分の車を出して有償で運ぶ場合は許可の対象です。

お客様の車を運転する場合は、任意保険の保険証券を見せていただいて、「家族限定」や「運転者の年齢条件」が付いていないかを必ず確認してください。
ここが抜けると、事故のときに何も使えません。

3. 何をどこまでするのか、いくらでするのかを紙にしたか

旅行の付き添いは、日帰りの外出よりも想定外のことが起きます。
夜間の対応が入る、滞在が延びる、体調が変わる。

始まる前に、何をどこまでするのか、時間が延びたらどうするのかを書いて渡しておいてください。

難しい契約書は要りません。
誰に、何を、何日間、いくらで。それが書いてあれば十分です。

この3つを確認しておけば、法令の線を踏むことはまずありません。
あとは、付き添うという本来の仕事に集中できます。

 

 

制度の外に、できることがあります

「介護保険ではできません」と断ってきた場面を、何度も見てきたと思います。

旅行はそのなかでも、いちばん心が残るもののひとつです。

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