「今まで会社が保険に入ってくれていました。
フリーになったら、自分で保険に入らなければいけませんよね。
どうしたらいいでしょうか?」
これは、講座を始めてから一番多く受ける質問のひとつです。
事業所に勤めている間は、賠償責任保険は会社が加入していました。
自分で手続きをした記憶がない方も多いと思います。
ところが個人で仕事を受けるとなると、自分で入るしかありません。
そこで「介護 賠償責任保険」で検索すると、出てくるのは事業者向け・事業所向けの商品ばかりです。
訪問看護ステーション向け、介護サービス事業者向け、法人で開業する人向け。
1対1で個人のお客様から仕事を受ける立場の人に向けた説明が、なかなか見つかりません。
この記事では、フリー介護士として個人で仕事を受ける場合に、賠償責任保険をどう考えればいいのかを整理します。
結論から言うと、個人で加入できる保険はあります。
ただし、確認しておかないと使えない落とし穴が3つあります。
保険を選ぶ前に決めることがあります
私が受講生にまずお伝えしているのは、商品を探す前にこれを考えてください、ということです。
自分は、何のリスクに対して保険をかけようとしているのか?
ここが決まっていないと、保険は選べません。
「介護の仕事は危険だから、広くカバーできるものに入りたい」と考えると、保険料が際限なく上がっていきます。
たとえば、90歳、100歳の方のお世話をしているとします。
その方の体調の急変まで自分の保険でカバーしようと思ったら、どうなるでしょうか。
もともと体調を崩すリスクが極めて高い相手ですから、引き受ける保険会社にとっては採算が合いません。保険金額はべらぼうに高くなります。
だから、リスクを分解して考える必要があります。
リスクを4つに分けてみます
個人で介護の仕事を受けるとき、起こりうることを分けるとこうなります。
- 相手の体調が急変した、病気になった ―― 治療費は、本人の健康保険が使えます
- 自家用車で送迎中に事故を起こした ―― 自動車保険が使えます
- 訪問先で食器や家具を壊してしまった ―― これが賠償責任の問題です
- 自分が病気やケガで働けなくなった ―― 収入が止まります。これは賠償責任保険では備えられません
こうして並べてみると、賠償責任保険が本当に必要なのは3つ目だということが分かります。
ただし、1つ目には補足が必要です。
治療費が健康保険で支払われることと、賠償責任がなくなることは別の話です。
こちらの過失で相手にケガをさせた場合、健康保険は使えますが、その後に加入している健康保険から費用を請求される仕組みがあります。
「健康保険が使えるから怪我のリスクは消える」という理解は正確ではありません。
だからこそ、次のことが保険より先に大切になります。
約束を先に交わしておく
個人のお客様と仕事を始める前に、何をどこまでするのか、いくらでするのかを紙に残しておくことです。
難しい契約書を作る必要はありません。
誰に、何を、どこまでして、いくらいただくのか。
それが書いてあれば十分です。
むしろ中途半端に条文を並べた契約書を作ると、何かあったときに「契約書にこう書いてあるのになぜやらなかったのか」と突かれることになります。
料金の決め方や、紙に何を書くかについてはフリー介護士のよくある質問で詳しく説明しています。
この「約束を交わしておく」ことが、実際には保険より効いています。
理由は後半でお話しします。
入っていないと受けられない仕事があります
ここまで「何のリスクに備えるか」という話をしてきましたが、実際に保険に入るきっかけは、事故が怖かったからではないことが多いです。
フリー介護士として4年近く活動している藤本さん(仮名・東京)が保険に入った理由は、こうでした。
お客様のほうから「保険に入ってください」と言われたからです。
そこで初めて調べて、加入しました。
自分が不安だったからではなく、仕事を受けるための条件として求められた、という順番です。
これは珍しい話ではありません。
個人で介護の仕事を受けようとしている人の質問を探すと、15年前にも同じ状況の投稿があります。
施設に出入りする条件が「賠償責任保険に加入していること」だったので、個人で加入できる保険を探している、というものです。
つまり賠償責任保険は、事故に備えるためだけのものではありません。
「この人にお願いして大丈夫か」を相手が判断する材料になります。
ご家族が離れて暮らしていて、初めて会う人に親を任せる場面では、なおさらです。
入るかどうかを自分の不安だけで考えていると、この視点が抜けます。
仕事の幅を決めるものだと考えたほうが、判断しやすくなります。
落とし穴1:個人賠償責任保険は仕事中が対象外です
ここが一番気をつけていただきたいところです。
「個人賠償責任保険」という名前の保険があります。
自転車保険に付いていたり、クレジットカードに付帯していたり、火災保険の特約になっていたりするものです。
月に数百円程度で、他人の物を壊したときに備えられます。
これで足りるのではないか、と考える方がいます。
私も以前はそう考えていました。
ところが、個人賠償責任保険は「職務の遂行に直接起因する損害」を補償の対象外としているものが多いです。
日本損害保険協会の損害保険Q&Aにも、支払われない例として職務遂行中の損害が挙げられています。
飲食店の従業員が仕事中にお客様の服を汚した場合、業務で自転車に乗っていて人にぶつかった場合。どちらも対象外です。
つまり、報酬をいただいて介護の仕事をしている時間は「職務遂行中」にあたります。
その間に訪問先の食器を割っても、個人賠償責任保険では支払われない可能性が高いということです。
日常生活のための保険と、仕事のための保険は別物です。
ここを混同したまま「付帯の保険があるから大丈夫」と思っていると、必要なときに使えません。
落とし穴2:フリーランス向けの制度は介護が対象外です
フリーランス全般に向けた保険制度があります。
フリーランス協会の会員特典には賠償責任補償が自動で付いていて、業務中の対人・対物事故に備えられます。
フリーランスの保険としてよく紹介されるものです。
ところが、フリーランス協会の会員特典のページを見ると、対象外の業種として医療・介護・福祉が明記されています。
フリーランス向けだから介護もカバーされるだろう、と考えて加入すると、いざというときに対象外だと分かります。
会費を払って備えたつもりになるのが、一番よくない状態です。
フリーランス向けと書いてあっても、介護が入っているかどうかは別に確認が必要だということです。
不安な方は、保険の専門家に相談が必要ですね。
落とし穴3:多くは資格や会員であることが条件です
では、介護の仕事で個人が入れる賠償責任保険はどこにあるのか。
調べたところ、現実的な選択肢は3つありました。
まず、資格や団体加入が前提になる2つを見ます。
日本介護福祉士会「安心三重奏」
会員専用の福利厚生制度で、賠償責任・傷害・所得補償の3つがセットになっています。
団体割引が適用されます。
賠償の対象は「介護福祉士の業務」で、ケアマネジャーとしての仕事も含まれます。
会員限定の制度です。入会が前提になります。
損害保険ジャパン株式会社が提供している保険です。
メディクプランニングオフィス「福祉専門職保険」
医療・福祉の専門職に特化した保険を扱っている代理店の商品です。
介護福祉士・社会福祉士・精神保健福祉士・介護支援専門員が対象で、初任者研修や実務者研修を修了した方も対象に含まれています。
こちらで注目していただきたいのは、勤務先以外で行った業務も対象になると記載されている点です。
個人で受ける仕事を考えている方には、確認する価値があります。
資格や会員であることを問わない選択肢
3つめは、団体や資格を通さず、事業用の保険として直接加入する方法です。
先ほどの藤本さん(仮名)が、お客様から求められて加入したのは、東京海上日動の「超ビジネス保険」でした。
事業に関わる補償を組み合わせて1つの契約にまとめる形の保険で、賠償責任の補償を含めることができます。
「法人のお客様」向けのページに載っているので個人には関係ないように見えますが、重要事項説明書を読むと、契約できるのは年間売上高が100億円以下の法人または個人事業主と書かれています。個人事業主も対象です。
川崎で活動している別の受講生も、同じ保険に加入しています。
フリーランスとして介護の仕事をしている人が実際に加入できている、ということです。
ただしこの保険にも業種の条件があります。
賠償責任の補償については、契約者の業種に保健衛生や社会保険事業団体、福祉事務所などが含まれる場合は契約できないと明記されています。
自分の事業をどう伝えるかで結論が変わる可能性があるので、業種を具体的に説明したうえで確認してください。
問い合わせのときに聞くべきこと
資格や団体を前提とする2つの制度については、公式ページに「個人事業として請け負った介護業務が対象になるか」が明記されていません。
「勤務中」「介護福祉士の業務」という表現が、事業所に勤めている前提なのか、個人で請け負う場合も含むのか、書かれている内容だけでは判断できませんでした。
ですので、加入を検討するときはこの4点を直接確認してください。
- 事業所に所属せず、個人で直接依頼を受けて行う介護業務は対象になりますか
- 介護保険を使わない、保険外サービスとしての業務は対象になりますか
- 自分が持っている資格で対象になりますか(介護福祉士でない場合は特に確認が必要です)
- 自分の業種は引受の対象になりますか(事業用の保険には業種による制限があります)
介護保険を使わない保険外サービスとして個人で仕事を受ける形については、介護保険外サービスを個人で始めるのほうで整理しています。
自分がどの立場で仕事を受けるのかが分かっていないと、保険会社にも正しく説明できません。
実際に、保険を使った人はどれくらいいるのか
ここまで落とし穴を3つ挙げてきましたが、現場の実態もお伝えしておきます。
先ほどの藤本さん(仮名)は、お客様に求められて保険に加入しました。
は、実際に使ったことがあるのか?
4年近く活動していて、一度もありません。
訪問先でマグカップの持ち手が取れてしまったことが、1度だけありました。
ただ、謝罪して終わりです。弁償も求められませんでした。保険を使う場面には至っていません。
この1年で講座に100人近くが参加していますが、保険を使ったという話は誰からも届いていません。

数字が少ないことには理由があると思っています。
1対1で、顔の見える相手と信頼関係を作ってから仕事をしているからです。
事業所として何十人もの利用者を抱え、担当者が交代しながらサービスを提供する形とは、事故が起きたあとの展開が違います。
もうひとつは、先にお話しした「約束を紙に残しておく」ことです。
何をどこまでするのかをお互いに確認してから始めていれば、そもそも認識のずれからトラブルになりません。
特に、離れて暮らすご家族が依頼主で本人が頼んだわけではない場合、第三者から見ても分かる形にしておくことが効きます。
自家用車を使う場合は別の話になります
横浜でも横須賀でも、坂の多い地域だと「買い物に連れて行ってほしい」「病院に付き添ってほしい」という依頼が出てきます。
このとき自家用車を使うかどうかは、保険とは別に判断が必要です。
自動車保険の適用範囲だけでなく、有償で人を運ぶことそのものが問題になる場合があります。
ここは踏み外すと保険では解決できない領域なので、自家用車での送迎が違法になる場合を先に読んでおいてください。
まとめ:確認するのはこの4点です
個人で介護の仕事を受けるとき、賠償責任保険について押さえるところはここです。
- 何のリスクに備えるのかを先に決める。治療費は本人の健康保険、車は自動車保険。残るのは「物を壊す」ことへの賠償です
- 付帯の個人賠償責任保険では足りない可能性が高い。仕事中が対象外になっているものが多いためです
- 「フリーランス向け」でも介護が対象か確認する。介護・医療・福祉を除外している制度があります
- 資格や団体に加入していなくても入れる道はある。事業用の保険は個人事業主も契約できます。ただし業種の条件を確認してください
そして、保険に入る前にできることがあります。
何をどこまでするのか、いくらいただくのかを紙に残しておくことです。
これは保険料もかかりません。
保険外サービスを個人で請け負う場合、法律上の加入義務はありません。
介護保険の指定を受けた事業者は事実上加入が必要ですが、指定を受けずに個人で依頼を受ける立場は、それにあたりません。
だから「入らなければ仕事ができない」わけではありません。
ただ、義務ではないことと、必要ないことは違います。
藤本さん(仮名)のように、お客様のほうから加入を求められて初めて調べる、という順番になることがあります。
そのとき「これから調べます」と答えるのと「入っています」と答えるのでは、仕事が決まるかどうかが変わります。
ですので、急いで何かに加入する必要はありませんが、自分がどんな仕事を受けたいのかは早めに整理しておいてください。
何に備えたいかを説明できれば、そこから先を選ぶのは保険のプロの仕事です。
ひとりで抱えなくていい仕事です
保険のことも、料金のことも、契約のことも、事業所に勤めている間は自分で考える必要がありませんでした。
だから、個人で始めようとしたときに調べることが一気に増えて、そこで止まってしまう方が多いのです。
フリー介護士養成講座では、こうした実務の疑問を、先に始めた人の実例をもとに毎週共有しています。
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