「厚生労働省が、介護保険外サービスの新しいガイドラインを出した」
2026年の春ごろから、SNSなどでこのような表現を見かけるようになりました。
この表現は、正確ではありません。
実際に公表されたのは、ケアマネジャーや地域包括支援センターの職員に向けた「手引き」です。
国の補助事業として行われた調査研究の成果で、法令でも、新しい規制でもありません。
ただ、この手引きを読むと、国の調査研究が介護保険外サービスをどう捉えているのかが、よく見えてきます。
この記事では、ケアマネジャー向けに書かれたこの資料を、サービスを提供する側であるフリー介護士の視点から読み解きます。
第1章:公表されたのは「ガイドライン」ではなく「手引き」です
まず、資料の正体を整理します。
| 資料名 | 保険外サービスを含む多様な地域資源について 利用者や家族等に情報提供する際の手引き・ポイント集 ~利用者や家族等の適切な選択に向けて~ |
|---|---|
| 作成 | 株式会社日本総合研究所(2026年3月) |
| 位置づけ | 厚生労働省 令和7年度 老人保健健康増進等事業「保険外サービス活用推進等に関する調査研究事業」の成果物 |
| 厚生労働省からの周知 | 介護保険最新情報 Vol.1503(2026年5月11日)。報告書を情報提供する事務連絡 |
| 想定読者 | ケアマネジャー、地域包括支援センターの職員、自治体の担当者 |
厚生労働省は、介護保険最新情報の掲載ページで、この調査研究の報告書を自治体などに紹介しています。
ページ内で「1503」を検索すると、該当の事務連絡が見つかります。
手引きの本文は、日本総合研究所のサイトで公開されているPDFで読めます。
「新しいルールができた」わけではありません
国の補助を受けた調査研究の成果であることと、厚生労働省自身が定めた法令や基準であることは、分けて考える必要があります。
今回の手引きで、保険外サービスのルールが変わったわけではありません。
- 保険外サービスが「解禁」されたわけではありません
- 規制が緩和されたわけではありません
- 保険外サービスの提供者が守らなければならない新しい基準ができたわけではありません
介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせて提供する場合の扱いは、これまでどおり2018年9月28日の厚生労働省の通知に沿って考えます。
「ガイドライン」は別にあります
SNSで「ガイドライン」という言葉が混ざった理由の一つは、似た時期に別の動きがあったからだと考えられます。
業界団体の一般社団法人 介護関連サービス事業協会が、保険外サービスの事業者向けのガイドラインや、認証制度(「100年人生サポート認証」)を作っています。
手引きの巻末でも、参考情報としてこの協会が紹介されています。
業界団体のガイドラインと、国の補助事業で作られた手引きは、別のものです。
第2章:手引きから見える、国の調査研究の問題意識
では、この手引きは何を問題にしているのでしょうか。
手引きの前半を読むと、大きく3つの問題意識が見えてきます。
1.介護保険だけでは満たせないニーズがある
手引きは、保険外サービスを「公的な介護保険制度ではカバーしきれない高齢者やその家族の幅広いニーズに応える」サービスと説明しています。
背景として挙げられているのは、一人暮らしの高齢者の増加と、働きながら介護をするご家族の増加です。
働きながら介護をするご家族は、2030年に318万人になると推計されています(経済産業省の推計)。
2.利用者さんは、保険外サービスを選びにくい
手引きは、利用者さんの側から見た課題も整理しています。
- 介護保険でできること・できないことの区別が分かりにくい
- 地域にどんなサービスがあるか分からない
- 事業者が多く、どこに頼めばいいか分からない
- 介護保険サービスと比べて、安心して頼みにくい
介護保険サービスは、事業所の基準がはっきりしていて、事業所の一覧もあります。
保険外サービスには、利用者さんが比べて選ぶための情報が整っていない。
手引きは、そこを課題として書いています。
3.保険外サービスを「地域資源」として活用する
資料名にある言葉は、「保険外サービスを含む多様な地域資源」です。
保険外サービスは、住民同士の支え合い活動やボランティア、シルバー人材センターなどと並んで、地域で高齢者の生活を支える資源の一つとして扱われています。
手引きは、保険外サービスが広がることの意義として、次の3つを挙げています。
- 利用者さんやご家族の生活の質が上がり、在宅生活の継続や家族の負担軽減につながる
- ケアマネジャーの本来業務以外の負担が減り、専門性の高い業務に集中できる
- 有資格者が専門性の高い領域に集中でき、介護人材の不足対策にも役立つ
保険外サービスは、介護保険の「おまけ」ではなく、地域の支えの一部として位置づけられています。
第3章:ケアマネジャー・地域包括支援センターに期待されていること
この手引きの中心は、ケアマネジャーや地域包括支援センターの職員が、保険外サービスをどう利用者さんに情報提供するか、という部分です。
手引きは、期待される役割を大きく3つに分けています。
1.情報収集・整理
普段から、地域の保険外サービスの情報を集めておく。
サービス内容や料金、利用方法、事業者の情報を、比べやすい形で整理しておく。
情報の集め方として、手引きには事業者から得られる一次情報が挙げられています。
- 事業者が配るパンフレットやチラシ、料金表
- 事業者への直接のヒアリング(訪問・電話・説明会など)
- 事業者が開く説明会や見学会
ヒアリングに応じたケアマネジャーからは、「ネットの情報だけで判断せず、現場を見たり電話で直接話を聞いたりしている」という声も紹介されています。
2.情報提供
利用者さんやご家族の話を聞いて、困りごとを整理する。
介護保険で対応できることと、保険外サービスで対応できることを分かりやすく説明する。
そのうえで、複数の選択肢を示し、利用者さんやご家族が納得して選べるように支える。
手引きには、「保険外サービスは介護保険サービスより費用が高いことが多いので、費用面は重要な検討ポイント」というケアマネジャーの声も載っています。
3.利用開始後のフォロー・連携
サービスが始まったあとも、利用状況や満足度、生活の変化を確認する。
サービス中の体調の急変や事故に備えて、事業者との連絡手段や緊急時の対応を、事前に決めておく。
ここで、ケアマネジャーの声として紹介されている一文があります。
事業者によっては月に一度、書面で利用者情報が共有されることがあります。そうした事業者には安心して依頼できます。
第4章:この手引きを、提供する側から読むと
ここからが、この記事の本題です。
第3章の内容を、サービスを提供する側から読み直してみます。
ケアマネジャーや地域包括支援センターは、地域の保険外サービスを把握し、比べて、利用者さんに示し、利用後も様子を確認することが期待されています。
ということは、保険外サービスを提供する側も、把握され、比べられ、確認される対象になる、ということです。
ここで、一つ大事なことを書いておきます。
この手引きに「フリー介護士」という言葉は出てきません。
フリー介護士という制度や職種が定義されたわけでも、国がフリー介護士を推奨したわけでもありません。
ただ、手引きからは次の流れが読み取れます。
- 介護保険だけでは満たせないニーズがある
- 保険外サービスへのニーズは高まっている
- ケアマネジャーや地域包括支援センターが、地域の保険外サービスを把握し、利用者さんに情報提供することが期待されている
この流れの中で、保険外サービスを提供する人にとって、ケアマネジャーや地域包括支援センターとの連携の大切さが、これまで以上に見えやすくなったと言えます。
フリー介護士は「個人で仕事をする人」から「地域資源」へ
フリー介護士というと、「組織に属さず、個人で仕事をする人」と受け取られることが多いと思います。
働き方としては、その通りです。
ただ、手引きの見方に立つと、もう一つの姿が見えてきます。
地域の専門職が把握し、利用者さんに示すことのできる「地域資源」の一つとしてのフリー介護士です。
ケアマネジャーから紹介を受けることは、目的ではありません。
地域の専門職と連携できる保険外サービスになった結果として、紹介が生まれます。
第5章:地域の専門職と連携できる保険外サービスになるには
では、地域の専門職と連携できる保険外サービスになるには、何が必要でしょうか。
手引きがケアマネジャーに求めている確認事項を裏返すと、提供する側が整えておくことが見えてきます。
1.できることと、できないことを明確にする
手引きは、生活支援サービスを選ぶ軸として「対応可能なサービスの範囲」を挙げています。
何でもできます、ではなく、何ができて、何はお引き受けしないのかを言えるようにしておきます。
できないことがはっきりしている方が、ケアマネジャーは利用者さんに説明しやすくなります。
2.料金を明確にする
手引きは、料金体系も選ぶ軸の一つとしています。
1時間あたりの料金、交通費、キャンセル時の扱いなど、利用者さんが事前に費用を見通せる形にしておきます。
手引きでも、利用するときは見積もりを取り、納得したうえで契約するよう促している地域包括支援センター職員の声が紹介されています。
3.対応地域と、誰が提供するのかを明確にする
どの地域まで伺えるのか。
どのような資格や経験を持つ人が伺うのか。
手引きは、サービス提供者として「有資格者や専門のスタッフ」「地域住民のボランティア」などの違いを挙げています。
介護福祉士や実務者研修などの資格があるなら、はっきり書いておきます。
4.緊急時の連絡方法を決めておく
手引きは、サービス中の体調の急変や事故に備えて、事業者との連絡体制を事前に決めておくことを、ケアマネジャー側のポイントにしています。
提供する側から先に、緊急時の連絡先と対応の流れを示しておきます。
ご家族への連絡、ケアマネジャーへの連絡、救急の要請を、どの順で行うのか。
万が一に備える賠償責任保険への加入も、この準備の一つです。
5.利用後に報告できるようにしておく
第3章で紹介した、「月に一度、書面で利用者情報が共有される事業者には安心して依頼できる」というケアマネジャーの声を思い出してください。
いつ、何を、どのくらいの時間行ったのか。
利用者さんの様子で気になったことは何か。
記録を残し、必要に応じて報告できる形にしておくことは、連携の土台になります。
6.渡せる資料を作る
手引きが一次情報として挙げている「パンフレット、チラシ、料金表」は、提供する側が用意するものです。
ケアマネジャーや地域包括支援センターは、集めた資料をファイリングしたり、一覧にしたりして、利用者さんへの情報提供に使っています。
私が講座でお伝えしている「ケアマネに渡せる資料を作る」という考え方は、この流れとよく合っています。
資料の作り方は、ケアマネに渡すチラシに何を書けばいい?で、実際の添削のやりとりをもとにまとめています。
7.一度の挨拶で終わらせず、関係を続ける
手引きは、ケアマネジャーが利用開始後も状況を確認し、その結果を次の利用者さんへの情報提供に生かすことを書いています。
つまり、ケアマネジャーとの関係は、紹介を受けた時点で終わりではありません。
利用後の報告を重ねることで、「この人なら安心して紹介できる」という信頼が積み上がっていきます。
ケアマネジャーから紹介を受けたあとのお礼の考え方は、ケアマネへの紹介のお礼の記事にまとめています。
一人で始める際に、実際に何を準備すればいいのかは、フリー介護士は一人でも始められる。でも、一人で全部判断しなくていいでお伝えしています。
第6章:読み間違えやすい点
最後に、この手引きについて、SNSや解説記事で読み間違えやすい点を整理しておきます。
「厚生労働省のガイドライン」ではありません
国の補助事業として、株式会社日本総合研究所が作成した調査研究の成果です。
厚生労働省は、事務連絡で報告書を情報提供しています。
掲載されている事業者は「推薦」ではありません
手引きには、生活支援・配食・移動支援などの代表的な事業者例が、料金の例とともに載っています。
ただし手引き自身が「これ以外にも多数の事業者が存在します」と書いています。
国が特定の事業者を推薦しているわけではなく、掲載されている料金も各事業者の価格例です。
「318万人」は2030年の推計です
働きながら介護をするご家族の数として出てくる318万人は、経済産業省による2030年の推計です。
いまの人数ではありません。
第7章:まとめ
- SNSで見かける「厚労省が新しいガイドラインを出した」は正確ではありません
- 公表されたのは、日本総合研究所が作成した、ケアマネジャー等向けの「手引き・ポイント集」(2026年3月)です。厚生労働省の補助事業による調査研究の成果です
- ルールは変わっていません。解禁でも規制緩和でもありません
- 手引きからは、介護保険だけでは満たせないニーズと、保険外サービスを地域資源として活用していく方向が読み取れます
- ケアマネジャー・地域包括支援センターには、保険外サービスの情報を集め、整理し、利用者さんに示し、利用後も確認することが期待されています
- 手引きに「フリー介護士」は出てきません。ただ、保険外サービスを提供する人にとって、地域の専門職との連携の大切さは、これまで以上に見えやすくなりました
- 連携できる保険外サービスになるには、できること・料金・対応地域・提供者・緊急時の連絡・利用後の報告・渡せる資料・続く関係を整えておくことです
フリー介護士は、個人で仕事をする人であると同時に、地域の専門職と一緒に高齢者の生活を支える地域資源になれます。
介護保険の枠の外で働くという考え方の全体像は、こちらにまとめています。
介護保険外サービスを個人で始めるときに何が必要かは、介護保険外サービスを個人事業主で始める方法をご覧ください。
フリー介護士として地域で信頼される働き方を、7日間のメール講座で順を追ってお伝えしています。
本記事は、「保険外サービスを含む多様な地域資源について 利用者や家族等に情報提供する際の手引き・ポイント集」(株式会社日本総合研究所、2026年3月。厚生労働省 令和7年度 老人保健健康増進等事業)の本文をもとに、2026年9月時点で作成しています。


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