「フリーランス新法ができた」と聞いても、自分に関係があるのかどうかが分かりにくい法律です。介護の仕事を個人で受けている方から、この質問をよくいただきます。
結論から言うと、この法律が効く場面と、まったく効かない場面がはっきり分かれます。
その線引きと、会社や施設と契約する前に確認しておく項目を整理しました。
1. この記事を読んでほしい方
次のどれかに当てはまる方に向けて書いています。
- フリー介護士として、介護事業所や施設と業務委託契約を結ぶ方。
「週2回、この利用者さんの入浴介助をお願いしたい」と施設から声がかかった場面です - ホームヘルパーとして事業所を辞め、個人で仕事を受け始めた方。
以前の勤務先から「人手が足りないときだけ手伝ってほしい」と頼まれる場面です - フリーの訪問看護師として、訪問看護ステーションや企業と契約する方
- 一人法人・マイクロ法人をつくって、介護の仕事を受けている方
- これから受講生や仲間に仕事をお願いしようとしている方(この場合、あなたが義務を負う側になります)
逆に、次の方はこの法律の対象になりません。
- 事業所に雇われて働いている方(正社員・パート・登録ヘルパーなど、雇用契約を結んでいる方)
- 派遣で働いている方
- 高齢者ご本人やご家族から直接依頼を受けているだけの方
ただし「対象外=守られていない」ではありません。
守ってくれる法律が違うだけです。
2. 早見表:あなたの働き方はどれか
| 働き方 | 結ぶ契約 | フリーランス新法 | あなたを守るもの |
|---|---|---|---|
| 施設・事業所に雇われている (正社員・パート・登録ヘルパー) |
雇用契約 | 対象外 | 労働基準法などの労働法 |
| 派遣会社に登録して働く | 派遣会社との雇用契約 | 対象外 | 労働基準法・労働者派遣法 |
| 事業所・施設・企業から 業務委託で受ける |
業務委託契約 | 対象 | フリーランス新法 |
| 高齢者ご本人・ご家族から 直接依頼を受ける |
個人との契約 | 対象外 | 契約書と損害賠償保険 |
| あなたが誰かに仕事を委託する | 業務委託契約 | 対象(義務を負う側) | — |
派遣で働く場合、この法律は関係ありません。
派遣は派遣会社に雇われている状態、つまり労働者だからです。労働者には労働基準法や労働者派遣法という、より手厚い守りがあります。心配は要りません。
問題になるのは、雇用ではなく「業務委託」で仕事を受けるときです。
個人事業主・一人法人として動く場合がこれにあたります。
雇用のときに当たり前にあった守り(決まった給料日、勝手に減らされない賃金、解雇のルール)が、そのままの形では付いてきません。
代わりに用意されたのがこの法律です。
3. そもそも何のための法律か
この法律の正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(令和5年法律第25号)といいます。2024年11月1日に施行されました。
名前のとおり事業者どうしの取引を対象にした法律です。
ですから、一般の消費者であるご利用者やご家族から直接お仕事をいただく場合は、この法律の外側にあります。
そこで守ってくれるのは、この法律ではなく契約書と損害賠償保険です。
4. 一人法人・マイクロ法人も「守られる側」に入る
ここが誤解されやすいところです。
法人をつくっていても、この法律の保護は受けられます。
法律が守る対象を「特定受託事業者」と呼びます。公正取引委員会の特設サイトにある定義はこうです。
- 個人であって、従業員を使用しないもの
- 法人であって、代表者1名以外に役員がおらず、かつ従業員を使用しないもの
つまり、ひとり社長の法人(一人法人・マイクロ法人)も、条件を満たせば守られる側です。
「法人化したから対象外だろう」と考えて権利を手放してしまうのは、もったいない誤解です。
「従業員を使用しない」の基準
ここでいう「従業員」は、短時間・短期間の一時的な雇用は含みません。
目安は週の所定労働時間が20時間以上で、かつ31日以上の雇用が見込まれる方です。
また、同居のご家族だけに手伝ってもらっている場合は「従業員の使用」に当たりません。
5. 会社と契約するとき、相手はこれだけの義務を負う
あなたが事業所や企業から業務委託で仕事を受けるとき、発注する側には次の義務があります。これは裏を返せば、あなたが求めてよいことの一覧です。
条文と期間要件は公正取引委員会のパンフレット(PDF)で確認できます。
| 条文 | 発注側の義務 | いつから効くか |
|---|---|---|
| 第3条 | 取引条件を書面か電磁的方法で明示する | すべての業務委託(期間を問わない) |
| 第4条 | 報酬の支払期日を定め、期日までに支払う | すべての業務委託 |
| 第5条 | 7つの禁止行為をしない | 契約期間が1か月以上 |
| 第12条 | 募集情報に虚偽・誤解を招く表示をしない | 募集の時点から |
| 第13条 | 育児・介護等との両立に配慮する | 契約期間が6か月以上(6か月未満は努力義務) |
| 第14条 | ハラスメントの相談体制を整える | すべての業務委託(期間を問わない) |
| 第16条 | 中途解除は30日前までに予告し、理由を開示する | 契約期間が6か月以上 |
報酬はいつまでに支払われるか
原則は、成果物を受け取った日、または役務の提供を受けた日から数えて60日以内の、できる限り短い期間内です。
「請求書を出した日から」でも「検収が終わってから」でもなく、受領した日が起算点である点が重要です。
7つの禁止行為(第5条・契約期間1か月以上が対象)
- あなたに落ち度がないのに、成果物の受け取りを拒む
- あなたに落ち度がないのに、報酬を減らす
- あなたに落ち度がないのに、受け取ったあとで返品する
- 同種の仕事に通常支払われる額に比べて、著しく低い報酬を不当に定める(買いたたき)
- 正当な理由なく、指定する物やサービスを強制的に購入・利用させる
- 自分のために金銭や役務など経済上の利益を提供させる
- 不当に、仕事の内容を変更させたりやり直させたりする
介護の現場に置き換えると、「今日は利用者さんの体調が悪いから来なくていい、報酬もなし」「予定になかった別の業務も同じ報酬でやってほしい」といった場面が、これらに触れる可能性があります。
中途解除の予告には例外がある
6か月以上の契約でも、次のような場合は30日前の予告が不要とされています。
契約前に、この例外が乱用されない書きぶりになっているかを見ておくと安心です。
- 災害など、やむを得ない事由で予告が困難な場合
- 再委託で、元の委託が解除されて業務の大部分が不要になった場合
- 基本契約に基づく、30日以下の単発業務の解除
- あなた側に重大・悪質な帰責事由がある場合
6. 契約前チェックリスト
先方の会社と契約を交わす前に、このリストを一緒に確認してください。
相手を疑うためのものではなく、あとで揉めないために先に決めておく項目です。
A. まず「書面をもらえているか」(第3条)
法律は、発注したら直ちに次の項目を書面か電磁的方法で明示するよう求めています。
メールやチャットでも構いませんが、口頭だけは認められていません。
- ☐ 発注する会社の名称と、あなたの名称
- ☐ 業務委託をした日
- ☐ 業務の内容(何を、どこまでやるのか)
- ☐ 役務の提供を受ける期日(いつ働くのか)
- ☐ 役務の提供を受ける場所(どこで働くのか)
- ☐ 検査をする場合は、その完了期日
- ☐ 報酬の額と支払期日
- ☐ 現金以外で支払う場合は、その方法
B. お金まわりで先に決めておくこと
- ☐ 支払期日は受領日から60日以内になっているか
- ☐ 交通費・駐車場代・立替金は、報酬に含むのか別途なのか
- ☐ 利用者側の都合で訪問が中止になったときの扱い(キャンセル料を取るのか、取らないのか)
- ☐ 想定より時間が延びたときの追加報酬の考え方
- ☐ 振込手数料をどちらが負担するか
C. 仕事の範囲を決めておくこと
- ☐ やらない業務が書いてあるか(医療行為、送迎、金銭の預かりなど)
- ☐ 当日その場で業務を追加された場合、誰が可否を判断するか
- ☐ 事故が起きたときの責任分担と、保険はどちらが用意するか
- ☐ 報告書の様式・提出先・頻度
D. 終わり方を決めておくこと
- ☐ 契約期間と、更新の有無
- ☐ 中途解除の予告期間(6か月以上の契約なら30日前予告が原則)
- ☐ 解除の理由を開示してもらえるか
- ☐ 契約終了後、その利用者さんと直接契約してよいのか(競業避止の条項があるか)
E. 働く環境について
- ☐ ハラスメントの相談窓口はどこか(第14条により、期間を問わず整備が義務です)
- ☐ 相談したことを理由に契約を切られない、と確認できているか
Dの最後にある競業避止の条項は、介護の仕事では特に確認をおすすめします。
契約が終わったあとに、そのご利用者さんとの関係をどうするのかは、事前に決めておかないとトラブルになりやすい部分です。
7. 見落としやすい点:あなたが「発注する側」になったとき
ここが一番の落とし穴です。
この法律の第3条は、従業員も他の役員もいない一人法人・個人事業主にも課されます。
法律は義務を負う側を2つに分けています。
| 呼び方 | 誰のことか | 負う義務 |
|---|---|---|
| 業務委託事業者 | フリーランスに仕事を委託する事業者全般。一人法人・個人事業主も含む | 第3条(取引条件の明示) |
| 特定業務委託事業者 | 従業員を使用する個人/役員が2人以上いる、または従業員を使用する法人 | 第3条に加えて第4条以降すべて |
つまり、あなたが一人法人のまま他のフリー介護士に仕事をお願いする場合でも、取引条件を書面で明示する義務は発生します。
「小規模だから関係ない」ではありません。
そして、従業員を雇ったり役員を増やしたりした時点で、負う義務が一気に増えます。
人を入れるかどうかを考える段階で、ここは押さえておく価値があります。
8. 困ったときの窓口
- フリーランス・トラブル110番:厚生労働省から第二東京弁護士会が受託して運営している相談窓口。弁護士に無料で相談できます(0120-532-110/平日9時30分〜16時30分)。和解あっせんの手続きもあります
- 厚生労働省:就業環境の整備(募集情報・ハラスメント・中途解除など)に関する申出窓口
- 都道府県労働局 雇用環境・均等部(室):一般的な相談
- 公正取引委員会・中小企業庁:取引の適正化に関する部分の執行機関
申出をしたことを理由に不利益な扱いをすることは、法律で禁じられています。
9. よくある質問
Q1. 派遣で働いています。この法律は関係ありますか?
関係ありません。派遣は派遣会社に雇われている状態、つまりあなたは「労働者」です。労働者には労働基準法と労働者派遣法が適用されます。
不安に思う必要はありません。労働法のほうが守りは手厚いからです。
決まった給料日、勝手に減らされない賃金、解雇のルール、有給休暇、労災保険——これらは雇用されているからこそ付いてくるものです。
フリーランス新法は、それらが付いてこない働き方のために、後から用意された法律です。
Q2. 契約書に「業務委託」と書いてあれば、私は個人事業主ということですか?
いいえ。契約書の名前では決まりません。実態で判断されます。
たとえば、勤務する曜日と時間が決められている、現場で細かく指示を受けながら働く、仕事の依頼を断る自由が実際にはない——こうした実態があると、契約書に「業務委託」と書いてあっても「労働者」と評価されることがあります(いわゆる偽装フリーランス、偽装請負)。
その場合、適用されるのはフリーランス新法ではなく労働基準法などの労働法です。
判断の考え方は厚生労働省のページにまとまっています。
介護の仕事は、現場で指示を受ける場面が多いぶん、この線引きが問題になりやすい分野です。「業務委託なのに、実質は職員と同じ働き方」になっていないかは、契約前に一度考えてみてください。
Q3. 一人法人をつくっています。法人だから対象外ですか?
対象です。代表者1名以外に役員がおらず、従業員を使用していなければ、法人でも「特定受託事業者」として守られます。
法人化を理由に権利を手放す必要はありません。
Q4. 利用者さんやご家族から直接依頼を受けています。
対象外です。この法律は事業者どうしの取引を対象にしており、一般の消費者との取引は含まれません。
ここで自分を守るのは、この法律ではなく契約書と損害賠償保険です。
Q5. 1日だけの単発の仕事でも守られますか?
一部は守られます。期間によって効く条文が変わります。
- 期間を問わず効く:取引条件の明示(第3条)、報酬の支払期日(第4条)、ハラスメント対策(第14条)
- 1か月以上:7つの禁止行為(第5条)
- 6か月以上:育児介護等への配慮(第13条)、中途解除の30日前予告(第16条)
Q6. 口頭で「明日来てください」と言われました。これは違反ですか?
第3条は、書面または電磁的方法での明示を求めています。
メール、チャット、SMSでも構いませんが、口頭だけでは足りません。
いきなり違反を指摘するのではなく、こちらからメールで条件を確認して送るのが実際的です。「明日〇時から〇時、〇〇様宅、内容は入浴介助、報酬〇円、お支払いは〇日でお間違いないでしょうか」と送っておけば、記録が残ります。
Q7. フリーの訪問看護師ですが、介護と同じ扱いですか?
職種ではなく契約形態で決まります。業務委託で仕事を受けるなら、看護師でも介護職でも同じです。
ただし訪問看護ステーションや訪問介護事業所には、指定を受けるための人員配置の基準があります。
そのため、業務委託で任せられる業務の範囲が事業所ごとに違うことがあります。
どういう契約形態になるのかは、必ず事業所側に確認してください。
Q8. 「これは法律違反では」と言ったら、契約を切られませんか?
相談や申出をしたことを理由に、契約解除などの不利益な取扱いをすることは法律で禁じられています。
とはいえ、いきなり相手に切り出すのは勇気が要ります。
先にフリーランス・トラブル110番で弁護士に無料相談し、伝え方を相談してから動くほうが安全です。
Q9. 私が受講生や仲間に仕事をお願いする場合はどうなりますか?
あなたが義務を負う側になります。
一人法人・個人事業主のままでも、取引条件の明示義務(第3条)は発生します。
さらに従業員を雇うか役員を増やすと、第4条以降のすべての義務(支払期日、禁止行為、ハラスメント対策、中途解除の予告など)が加わります。
人を入れるかどうかを考える段階で押さえておいてください。
10. まとめ
- 雇用や派遣で働いている場合は関係ない。労働基準法・労働者派遣法という、より手厚い守りがある
- ご利用者やご家族から直接依頼を受ける仕事にも関係ない
- 会社・施設・事業所から業務委託で受ける仕事に関係する
- 「業務委託」と書いてあっても、実態が労働者なら労働法が適用される
- 一人法人・マイクロ法人も守られる側に入る(代表者1名以外に役員がおらず、従業員を使用しない場合)
- 効いてくるポイントは期間で変わる。1か月以上で禁止行為、6か月以上で中途解除の30日前予告
- 取引条件の明示義務は、あなたが発注する側になったときも発生する
契約書を前にして「これでいいのだろうか」と迷ったとき、上のチェックリストを1項目ずつ埋めてみてください。
埋まらない項目が残るなら、そこが先方と話しておくべき場所です。
出典(すべて官公庁の一次資料)
- 特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(令和5年法律第25号)条文|公正取引委員会
- フリーランス法特設サイト|公正取引委員会
- 「ここからはじめる フリーランス・事業者間取引適正化等法」パンフレット(PDF)|公正取引委員会
- フリーランスとして安心して働ける環境を整備します|厚生労働省
- フリーランス・事業者間取引適正化等法|中小企業庁
- フリーランス法Q&A|公正取引委員会
- 労働者性の判断基準・労働基準法等違反相談窓口|厚生労働省
- フリーランス・トラブル110番|厚生労働省(第二東京弁護士会が受託運営)
この記事は2026年8月時点の法令にもとづく一般的な情報です。条文の解釈や個別の契約について判断が必要な場合は、弁護士等の専門家、または上記の窓口にご相談ください。


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