「じゃあ、介護職がやっていいことは、何ですか」
爪切り関係の民間資格はいくつもありますが、爪切りは法律に触れる可能性がある、という話をしたところ、たくさんの反響をいただきました。
その中でいちばん多かったのが、この声です。
やってあげたい。
でも、やっていいのか分からない。
分からないから、やらない。
やらないけれど、本当にそれでよかったのか、ずっと引っかかっている。
実は、この答えは厚生労働省の通知に、はっきり書いてあります。
爪切りと同じ通知の中に、ほかの行為もまとめて並んでいます。
ところが、この通知を最後まで読んだことがある方は、ほとんどおられません。
この記事では、通知に書かれている行為を、条件まで含めて一覧にしました。
あとから読み返せるように作っています。
第1章:根拠は厚生労働省の通知。禁止を増やすために出たものではありません
この記事に書くことは、全部ひとつの通知から来ています。
まず、その通知が何なのかをはっきりさせます。
根拠になっているのは、この通知です。
「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」
平成17年7月26日 医政発第0726005号 厚生労働省医政局長から各都道府県知事あて
長い名前ですが、中身はA4で数ページです。
注目していただきたいのは、この通知が出された理由です。
通知の中に、こう書かれています。
医師、看護師等の免許を有さない者が業として行うことを禁止されている「医行為」の範囲が不必要に拡大解釈されているとの声も聞かれるところである
つまり、この通知は、禁止を増やすために出たものではありません。
「やってはいけない」と思い込まれすぎている、という声を受けて出た通知です。
そのうえで、通知はこう続きます。
医療機関以外の高齢者介護・障害者介護の現場などで判断に迷うことの多い行為で、原則として医行為ではないと考えられるものを、別紙のとおり列挙した、と。
その別紙を、次の章で見ていきます。
第2章:医療の資格がなくても、してよいとされている11の行為
通知が挙げているのは、全部で11の行為です。
厚生労働省の文書では、この11が2か所に分けて書かれています。
はじめの5つは本文に、残りの6つは「注1」という見出しの下にあります。
「注」と書いてありますが、はじめの5つについての注意書きではありません。
中身は「これもしてよい」という、続きの一覧です。
なぜ2か所に分けて書いたのか、その理由は通知に書かれていません。
ただし、そのあとの注意書きは「1から5まで及び注1に掲げる行為は」と、両方をまとめて受けています。
つまり、扱いは同じです。
ですので、この記事では11をひとつの表にまとめます。
| 介護職がしてもよい行為 | どこまで、どうやって、してよいか |
|---|---|
| 体温を測る | 水銀体温計・電子体温計ならわきの下で。耳式の電子体温計なら耳の穴(外耳道)で。 |
| 血圧を測る | 自動血圧測定器を使って。 |
| パルスオキシメーターを着ける | 新生児以外で、入院して治療する必要がない方に。 |
| 軽い切り傷・擦り傷・やけどの手当て | 専門的な判断や技術がいらない手当てまで。汚物で汚れたガーゼの交換も含みます。 |
| 薬を使うのを手伝う | 気をつけることが、いちばん多い行為です。条件は第3章にまとめました。 |
| 爪を切る・爪やすりをかける | 次の3つが全部そろったときだけ。①爪そのものに異常がない ②爪の周りの皮膚に化膿や炎症がない ③糖尿病などで専門的な管理が必要でない |
| 毎日の口の中のケア | 重い歯周病などがない場合。歯ブラシ・綿棒・巻き綿子で、歯・口の中の粘膜・舌の汚れを取るところまで。 |
| 耳垢を取る | ふつうの耳垢を取るところまで。固まって詰まっている耳垢(耳垢塞栓)を取ることは、この通知に入っていません。医師・看護職員に相談してください。 |
| ストーマ装具のパウチにたまった排泄物を捨てる | 捨てるところまで。肌に貼り付いているパウチを貼り替えることは、この通知に入っていません(これについては第4章で別に書きます)。 |
| 自己導尿を手伝う | ご本人が自分でカテーテルを入れる、その手伝いまで。カテーテルを用意すること、姿勢を支えること(体位の保持)は、してよいことです。カテーテルを入れる行為そのものは、ご本人がします。 |
| 市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器で浣腸する | 使ってよい浣腸器の大きさが決まっています。挿入部の長さ5〜6センチメートル程度以内、グリセリン濃度50%、成人用で40グラム程度以下、6〜12歳未満の小児用で20グラム程度以下、1〜6歳未満の幼児用で10グラム程度以下。 |
左の列に並んでいる11の行為は、医療の資格がなくても、介護職がしてもよいことです。
医療行為にはあたりません。
ただし、11のうちどれひとつも、「いつでも、どんなやり方でもしてよい」とは書かれていません。
必ず、右の列のやり方や条件がついています。
右の列のとおりにやれば、介護職がしてもよいことです。
右の列から外れていたら、その日はやりません。
ですので、左の列の行為の名前だけを覚えても、使えません。
必ず右の列まで読んでください。
なお、爪切りについては、条件の読み方と、巻き爪・肥厚爪・魚の目をどう扱うかを介護美容は美容師免許がなくてもできますの第4章で詳しく書いています。
爪に関わる仕事を考えておられる方は、そちらもあわせてお読みください。
体温や血圧を測るのは医行為ではありません。その数値で判断すると医行為です
体温も血圧も、介護職が測ってもよいことです。
気をつけるのは、測ったあとです。
出た数字を見て、介護職が「薬を飲んだほうがいい」「今日は飲まなくていい」と決めてはいけません。
それは医療行為になります。
通知には、こう書かれています。
体温・血圧・動脈血酸素飽和度を測ること自体は、原則として医行為ではありません。
けれども、測った数値をもとに投薬の要否など医学的な判断を行うことは、医行為です。
では、数字がふだんと違っていたら、どうするか。
医師・歯科医師・看護職員に伝えます。
通知にも、あらかじめ示された範囲から外れた数値が出たときは報告すべきもの、と書かれています。
つまり、介護職の仕事は、測って、伝えるところまでです。
その数字を見て薬をどうするかを決めるのは、医師・歯科医師・看護職員の仕事です。
第3章:薬を使うのを手伝えるのは、条件がそろったときだけです
薬を使うのを手伝うことも、介護職がしてもよいことです。
ただし、11の行為の中で、気をつけることがいちばん多いのが、この薬です。
「してもよい」と書かれていますが、守る条件がいくつもついています。
条件を飛ばして手伝うと、してもよいことになりません。
まず、手伝ってもよい薬の使い方は、次の6つです。
- 皮膚への軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)
- 皮膚への湿布の貼付
- 点眼薬の点眼
- 一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)
- 肛門からの坐薬挿入
- 鼻腔粘膜への薬剤噴霧
この6つも、条件がそろったときだけです。
条件は、大きく2つに分かれています。
ひとつめ|ご本人の状態が、3つとも当てはまること
通知は、ご本人の状態について3つの条件を挙げています。
3つとも満たしているときだけです。
- 入院・入所して治療する必要がなく、容態が安定していること
- 副作用の危険性や投薬量の調整などのため、医師または看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合ではないこと
- 内用薬については誤嚥の可能性、坐薬については肛門からの出血の可能性など、その使い方そのものに専門的な配慮が必要な場合ではないこと
ふたつめ|処方・服薬指導・事前の依頼がそろっていること
通知には、次のことも書かれています。
- その3条件を満たしていることを、医師・歯科医師または看護職員が確認していること
- 免許を持たない人が使用の介助をできることを、ご本人またはご家族に伝えてあること
- 事前に、ご本人またはご家族から具体的な依頼があること
- 医師の処方を受け、あらかじめ薬袋等によりその方ごとに区分して渡された薬であること
- 医師または歯科医師の処方と薬剤師の服薬指導のうえ、看護職員の保健指導・助言を守っていること
つまり、薬を手伝ってもよいかどうかは、その行為が簡単かどうかでは決まりません。
医師の処方があり、薬剤師の指導があり、看護職員が状態を確かめている。
そこまでそろっているから、介護職が手伝ってもよいのです。
一覧に「薬を使うのを手伝う」と書いてあるからといって、自分の判断で始めないでください。
第4章:医行為ではない行為の通知は、3本あります(平成17年・令和4年・令和7年)
ここまでは平成17年の通知の話でした。
実は、同じ題名の通知が、そのあと2本出ています。
その2|インスリンの準備、経管栄養の準備など19項目(令和4年12月1日)
平成17年の通知に載っていなかった行為を、19項目足したものです。
介護の現場で実際によくある場面が並んでいます。
- インスリン注射の準備と片付け(声かけ、見守り、未使用の注射器の手渡し、使い終わった注射器の片付け、記録。針を抜いて処分する行為は除く)
- 持続血糖測定器のセンサーの貼付と、測定値の読み取り
- 経管栄養の準備と片付け(栄養等を注入する行為、注入を停止する行為は除く)
- 吸引器にたまった汚水の廃棄、吸引器に入れる水の補充
- 在宅酸素療法の準備と片付け(酸素吸入の開始と停止は、医師・看護職員またはご本人)
- 膀胱留置カテーテルの蓄尿バッグからの尿の廃棄、尿量と色の確認
- 水虫や爪白癬にかかった爪への軟膏・外用液の塗布、吸入薬の吸入、分包された液剤の内服の介助
- 半自動血圧測定器(ポンプ式を含む)による血圧測定
- 食事(とろみ食を含む)の介助
- 入れ歯の着脱と洗浄
その3|お薬カレンダーへのセット、湿布、蓄尿バッグの接続(令和7年12月26日)
いちばん新しい通知です。
足されたのは、薬の準備と蓄尿バッグの、2つの場面です。
- お薬カレンダーへ、一包化された等の医薬品をセットすること
- 服薬の直前に、PTPシートから薬剤を取り出すこと(PTPシートをハサミなどで1つずつに切り離さないよう留意することと書かれています)
- 専門的な管理が必要ないことを医師または看護職員が確認した皮膚に、湿布を貼ること(鎮痛・消炎の効能を持つ貼付剤。麻薬・向精神薬、ステロイド外用剤など専ら皮膚疾患に用いるものは除く)
- 蓄尿バッグの破損などで尿漏れを確認したとき、または蓄尿バッグが外れたときに、未開封・未使用の蓄尿バッグを膀胱留置カテーテルに接続すること(医師または看護職員の立会いのもとで、安全に行えることを事前に確認された人が行う。定期的な交換は医師または看護職員)
また、抗血栓薬のように特に安全管理が必要な薬については、免許を持つ人が判断し、内容を確認することとされています。
ストーマ装具の交換は、平成23年に別の回答が出ています
平成17年の通知では、「パウチにたまった排泄物を捨てること」までで、肌に接着したパウチの取り替えは除かれていました。
この点について、平成23年に、日本オストミー協会からの照会に厚生労働省が回答しています。
肌への接着面に皮膚保護機能を持つストーマ装具については、ストーマとその周辺の状態が安定している場合など、専門的な管理が必要とされない場合には、その交換は原則として医行為には該当しない、という内容です。
ただし回答には、実施にあたっては平成17年通知の注2から注5までを踏まえ、医師または看護職員と密接な連携を図るべきと添えられています。
つまり、ここでも状態と連携が前提です。
第5章:爪切りは「やっていい」も「だめ」も不正解。見るのは今日の状態です
ここまでが、通知に書かれていることです。
ところが、一覧を全部覚えても、現場の迷いは消えません。
実際にあった場面を、ひとつお話しします。
ある回のグループコンサルで、爪切りの話になりました。
ひとりの方が、こう言われました。
「前のセミナーで、爪切りは医療行為だから、皆さんやっていないと聞きました」
すると、別の方が言いました。
「厳密にはだめなんですよ。医療行為になるので」
さらに、別の方が言いました。
「糖尿病もなく、健康な状態の方の、ニッパーも使わない爪切りなら、医療行為ではないと習いました。日常生活の延長線上にあるものだと」
施設では看護師の指示のもとでやっていた、という方もおられました。
個人宅の訪問で、ご家族に頼まれて切っている、という方もおられました。
同じ講座で学んでいる方の間でも、答えが割れたのです。
そして、割れた理由がはっきりしています。
全員が、半分ずつ正しかったからです。
通知には、爪切りは原則として医行為ではないと書いてあります。
同時に、3つの条件も書いてあります。
ですので、答えをはっきり書きます。
爪そのものに異常がなく、爪の周りの皮膚に化膿や炎症がなく、糖尿病などで専門的な管理が必要でなければ、爪を切っても医行為にはあたりません。
厚生労働省の通知に、そう書いてあります。
逆に、3つのうちひとつでも外れていたら、その日はやりません。
つまり、「やっていい」も「だめ」も、どちらも答えになりません。
正しい問いは、「爪切りはやっていいか」ではありません。
「この方は今、3つの条件を満たしているか」です。
一覧は、覚えるためのものではありません。
目の前の方を見るときの、チェック項目です。
そして、同じ方でも、先週と今日では答えが変わることがあります。
皮膚に炎症が出ていれば、今日はやらない。
それだけのことです。
第6章:自分で仕事を受けるなら、必ずやる3つ(説明・相談・記録)
施設で働いていると、この判断は一人でしません。
看護師がいます。相談できる先輩がいます。事業所のルールがあります。
自分で仕事を受けるようになると、その場で判断する場面が増えます。
だからこそ、次の3つを決めておいてください。
いずれも、通知の中に書かれていることです。
1. やる前に説明して、異常があればその日はやらない
通知には、ご本人やご家族に分かりやすく、適切な説明を行うこと、と書かれています。
そして、何をするかを伝えたうえで、皮膚と状態を見ます。
異常があれば、その日はやらない。
「異常があったらその日はやらない」を、はじめから決めておく。
その場で考えると、迷います。
2. 迷ったら、医師・歯科医師・薬剤師・看護職員に相談する
通知には、サービス担当者会議の開催時などに、必要に応じて医師・歯科医師または看護職員に、専門的な管理が必要な状態かどうかを確認することが考えられる、と書かれています。
病状の急変が生じた場合などには、速やかに連絡を行う等の必要な措置を講じること、とも書かれています。
相談する先を、始める前に決めておいてください。
一人で始めても、一人で全部判断する必要はありません。
この点は一人で始められる。でも一人で全部判断しなくていいに書いています。
3. やったことを記録に残す
通知には、ケアの実施後に報告を行う等して適切に連携すること、と書かれています。
何を見て、どう判断して、何をしたか。
これは、介護の現場でずっとやってこられたことと同じです。
特別なことは、何もありません。
研修は必要です。事故が起きたときの責任も、別に判断されます
通知には、さらにこう書かれています。
ひとつめ。これらの行為を業として行う場合には、実施者に対して一定の研修や訓練が行われることが望ましいこと。
医行為でないからといって、研修が要らないという意味ではない、とはっきり書かれています。
ふたつめ。今回の整理はあくまでも医師法などの解釈に関するものであり、事故が起きた場合の刑法・民法等による刑事上・民事上の責任は別途判断されること。
「医行為ではない」は、「何があっても責任を問われない」という意味ではありません。
だからこそ、説明と、相談と、記録です。
第7章:まとめ|介護職がしてよい行為と、その条件
この記事の要点は7つです。
迷ったときに、ここだけ見返してください。
- 介護職が原則として行ってよい行為は、厚生労働省の通知にまとまっています(平成17年7月26日 医政発第0726005号)
- この通知は禁止を増やすためではなく、「医行為」の範囲が不必要に拡大解釈されているという声を受けて出されました
- 介護職がしてもよいのは11の行為です。厚生労働省の文書では本文と「注1」の2か所に分かれていますが、扱いは同じです。11のどれにも「どこまで、どうやって、してよいか」が決められています
- 薬を使うのを手伝うときは、状態の3条件に加えて、処方・服薬指導・保健指導・事前の依頼という手続きの前提があります
- 通知は3本あります。その2(令和4年12月1日)で19項目、その3(令和7年12月26日)でお薬カレンダーへのセット・PTPシートからの取り出し・湿布の貼付・蓄尿バッグの接続が加わりました
- 体温・血圧を測るのは介護職がしてもよいことですが、出た数字を見て薬をどうするか決めるのは医師・看護職員の仕事です
- 業として行うなら研修が望ましく、事故時の刑事上・民事上の責任は別途判断されます
そのうえで、いちばん大事なことを、もう一度書きます。
一覧を覚えることが目的ではありません。
「この方は今、条件を満たしているか」を自分で見られることが目的です。
どこまでしてよいかを知っていると、怖くなくなります。
そして、知っている人だけが、「ここまではできます。ここから先はできません」と、はっきり言えます。
できることと、できないことを、0か100で考えてしまう方がとても多いのです。
全部やるか、何もやらないか。
そうではありません。
ここまでならできます、と言えることは、お客様の安心にも、ご自分を守ることにもつながります。
これは、施設を続けながらでも使える力です。
そして、自分で仕事をつくるときには、欠かせない力になります。
介護保険の枠の外で働くという考え方の全体像は、こちらにまとめています。
保険外サービスをこれから考える方は、厚生労働省の手引きから読み解いた記事もあわせてどうぞ。
なお、実際の対応は、主治医の指示や、ご本人・ご家族との取り決めに従ってください。
勤務先がある方は、事業所のルールも必ず確認してください。
出典
- 医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)(平成17年7月26日 医政発第0726005号)|厚生労働省
- 同(その2)(令和4年12月1日 医政発1201第4号)|厚生労働省
- 同(その3)(令和7年12月26日 医政発1226第12号)|厚生労働省
- 原則として医行為ではない行為について|厚生労働省
自分で仕事をつくるときに、最初に決めることは何かを、7日間のメール講座で順を追ってお伝えしています。
どこまでしてよいかを知ることは、その第一歩です。



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