「あなたに、個人でお願いできないかしら」
担当している利用者さんから、そう言われることがあります。
ご家族から言われることもあります。
嬉しい言葉のはずなのに、その場では返事ができません。
事業所を通さずにお金をいただいてよいのか。
就業規則に何か書いてあった気がする。
黙って引き受けたら、あとで問題になるのではないか。
そして誰にも相談できないまま、あいまいに笑ってごまかす。
この記事は、そのときにどうするかの話です。
先にお伝えします。 頼まれた側の話です。
「ヘルパーさんに個人でお願いしたい」とお考えのご家族向けではありません。
1. 結論:断る前に、職場へ確認してください
やることは一つです。
職場の上司・責任者に、隠さず相談する。 聞くのは、この一点です。
勤務時間外に、この利用者さんへ有償でサービスを提供してもよいでしょうか
順番が大事です。 断るのも、受けるのも、確認したあとです。
多くの方が、確認より先に答えを出そうとして止まります。
そこが一番もったいないところです。
「うちは副業禁止だから」で止まらないでください
ここで引っかかる方が、とても多くいらっしゃいます。
就業規則に「副業禁止」と書いてあっても、それだけで確認をあきらめる必要はありません。
会社が副業を止められるのは、国の整理では4つの場合だけです。
その4つが介護の現場では何にあたるのかを、別の記事にまとめました。
先に読んでおくと、この後の確認がしやすくなります。
2. こっそり受けることだけは、やめてください
これだけは、はっきり書きます。
黙って引き受けて、黙ってお金をいただく。 これは絶対にやめてください。
理由は、あなたが困るからではありません。
いちばん困るのは、頼んでくれた利用者さんです。
あとで発覚したとき、何が起きるかを考えてみてください。
- あなたは職場にいられなくなる
- 利用者さんは、あなたを失う
- そのうえ「あの人に頼んだせいで」と自分を責めることになる
善意で始めたことが、信頼してくれた人を傷つける形で終わります。
しかも、隠したという事実だけは残ります。
やっていた中身が正しかったかどうかは、そのとき誰も見てくれません。
「バレなければいい」で始めた仕事は、続きません
個人で仕事を受けるということは、長く続ける関係をつくるということです。
最初の一件を隠して始めると、その関係はずっと隠したままになります。
ご家族にも、ケアマネさんにも、何も言えません。
それは、あなたが望んだ働き方でしょうか。
3. 「断る」も、正解ではありません
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
問題を避けたいなら、断るのが一番簡単です。 何も起きません。 誰にも怒られません。
それでも、断ることをおすすめしません。
あなたが断ると、その方の選択肢が一つ減ります。
もしかすると「一生のお願い」かも知れません。
「個人でお願いしたい」と言われたということは、他に頼める人がいないということです。
制度の中で頼めるなら、そちらに頼んでいます。
そして、あなたに言ってきた。 あなたが信用されたということです。
その信頼に対して「規則なので」とだけ返すのは、簡単ですが、少し寂しい返し方だと思います。
信用されて相談されたのですから、その方のためにも、まず職場と話してください。
それが、断る前にできることです。
4. なぜ、保険の外の頼まれごとが増えているのか
「うちの利用者さんに限った特別な話では」と思われるかもしれません。
そうではありません。
介護保険からこぼれる部分は、制度の作りとして必ず出ます。
理由は2つあります。
理由1:量が足りない(限度額を使い切る)
介護保険の居宅サービスには、要介護度ごとに1か月の上限が決まっています。
区分支給限度基準額といいます。
この上限を超えて使った分は、全額自己負担です。
つまり、ケアマネさんがどれだけ工夫しても、そもそも積める量に天井があるということです。
週に何時間、と決まった訪問だけでは足りない。
けれど、これ以上は保険で積めない。
この状態は、珍しくありません。 (上限額は改定されますので、正確な額はお住まいの自治体のページでご確認ください。)
理由2:種類が合わない(そもそも保険で頼めない)
量の問題とは別に、保険では頼めない種類の用事があります。
- 遠くの病院へ連れて行ってほしい
- 買い物や散歩ではなく、行きたい場所へ出かけたい
- ご家族の代わりに、まとまった時間そばにいてほしい
どれも、その方にとっては切実な用事です。
けれど、介護保険が想定している「日常生活の援助」からは外れます。
制度が悪いという話ではありません。
介護保険には守備範囲があり、その外側は最初から空いている、というだけのことです。
だから、ケアマネさんの側からも相談が来ています
ここは意外に思われるかもしれません。
「保険内では手配しきれないので、個人で動ける方はいませんか」——ケアマネさんからそう相談が来るケースが、各地で出ています。
必要なサービスがあるのに、限度額の中では組めない。
組めないからといって、放っておくわけにもいかない。
その板挟みは、ケアマネさんも同じように抱えています。
ケアマネの経験がある方ほど、この行き詰まりをよくご存じです。
制度の中でできることがなくなって、結局は休みの日に自分で動いてしまう—そういう話も珍しくありません。
裏で動かなければ回らない場面が、それだけ多いということです。
だからこそ、表でやる方法をつくったほうがいいと考えています。
それが、コンサルをしている私が「フリー介護士養成講座」を始めたきっかけです。
5. 職場に確認したら、どうなるのか
正直に書きます。
結果は、上司や責任者の考え方で大きく変わります。
「規則だからだめ」で終わることもあります。
その一方で、認められている例も実際にあります。
認められた例
九州で活動している方は、勤務時間外のフリー介護士としての活動を、職場が認めています。
理由が現実的です。
その方に辞めてほしくなかったからです。
関西の方は、仕事を通じて知り合った方を、休日に外出へお連れしています。
どちらも、隠れてやっていることではありません。
認められる職場に共通していること
一つだけあります。
上司が「利用者を大事にしたい」と考えているかどうかです。
そう考えている方から見れば、話は単純です。
遠くの病院にも、行きたい場所にも、保険では連れて行けない。
けれど施設の職員も手が回らない。
ならば、利用者さんが実費を払って、信頼している人に頼むほうがいい。
こうした形は、実際に少しずつ増えています。
現場では、もう特別なことではなくなりつつあります。
6. 確認するときの伝え方
聞き方で、返ってくる答えが変わります。
「副業をしてもいいですか」と聞かないでください。
それは、あなたの都合の話に聞こえます。
利用者さんの困りごとから話してください。
◯◯さんから、通院の付き添いを個人で頼めないかと相談されました。
介護保険では回数が足りないそうです。
私としては、勤務時間外であればお手伝いできると思っています。
事業所として、どのように扱えばよいでしょうか。
この言い方には、3つが入っています。
- 利用者さんの困りごとが先に来ている(あなたの副業の話ではない)
- 勤務時間外だと明示している(業務との切り分け)
- 判断を職場に預けている(勝手にやりませんという意思表示)
先に決めておくこと
確認の前に、自分の中で整えておくと話が早くなります。
- いつやるのか(勤務時間外・休日であること)
- 何をするのか(保険サービスと重ならない内容であること)
- お金をどうするのか(利用者さんから直接いただく形になること)
ここがあいまいなまま相談すると、相手も判断できません。
だめだと言われる理由の何割かは、内容が見えないことにあります。
7. だめだと言われたとき
その答えも、受け止めてください。
確認したうえで断るのと、黙って断るのは、まったく違います。
確認していれば、利用者さんにこう言えます。
職場に相談しましたが、いまの立場では難しいという返事でした
これは誠実な断り方です。
その方も、あなたが動いてくれたことは分かります。
関係は壊れません。
そして、ここから先は別の話になります。
「いまの立場では」というのは、立場が変われば違うということでもあります。
事業所に所属したままでは受けられない。
けれど、事業所を離れて個人で仕事を受けるという働き方であれば、この依頼は普通に受けられます。
断られたことをきっかけに、働き方そのものを考え始める方もいます。

8. まとめ
- こっそり受けることだけは、絶対にやめる。いちばん傷つくのは、頼んでくれた方です
- 断るのも、先に選ばない。あなたが断ると、その方の選択肢が一つ減ります
- まず職場に確認する。「勤務時間外に、この方へ有償で提供してよいか」
- 聞くときは利用者さんの困りごとから話す。副業の相談にしない
- いつ・何を・お金をどうするかを先に整えてから相談する
- 認められている例は実際にあります。上司の考え方で変わります
- だめだった場合も、確認した事実が誠実な断り方をつくります
保険からこぼれる用事は、これからも減りません。
量にも上限があり、種類にも枠があるからです。
そこに気づいた利用者さんが、信頼できる人に直接声をかける。
あなたが頼まれたのは、そういう流れの中でのことです。
隠さずに、まずは職場の上司や責任者に話してみてください。
保険の外で介護の仕事を受けるとき、料金・お金の扱い・記録をどう決めればよいのか。
利用者のお金を預かるときや交通費・ガソリン代の決め方で、実務の部分をまとめています。
事業所を離れて働くという選択肢について、順を追ってお伝えしています。
もっと学びたい方は、先ずは無料で学んでみてください。
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出典
この記事は2026年8月時点の情報にもとづく一般的な内容です。区分支給限度基準額は改定されますので、正確な額はお住まいの自治体でご確認ください。就業規則や副業の可否は事業所ごとに異なります。実際の判断は、必ずご自身の勤務先にご確認ください。記事中の事例は、内容が特定されないよう地域を広げて記載しています。


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