「介護保険外のサービスを、個人で始めてみたい」
そう思って調べ始めて、手が止まった方が多いと思います。
出てくるのは、こういう言葉です。
- 指定申請
- 人員基準
- 資金調達
- 事業計画書
- 請求システムの選び方
読めば読むほど、自分の話ではない気がしてきます。
その感覚は、間違っていません。
ネットで調べて出てくる情報が、あなたに向けて書かれていないだけです。
一人で始めるなら、介護保険外の自費サービスは、思っているよりずっと身軽に始められます。
マイペースで、できる範囲で、困っている方の力になりたい。
そういう方のために書きました。
ぜひ、最後までご覧ください。
本稿は、介護のお仕事をされている方に向けた記事です。サービスを受けたいご家族向けではありませんのでご注意ください。
第1章:出てくる情報が、あなた向けではありません
検索して出てくる記事を、書いている人で見てください。
介護システムの会社。請求ソフトの会社。開業支援の会社。
売っているのは、事業所向けのソフトとサービスです。
だから記事も、事業所を作る人に向けて書かれています。
けれど、あなたが考えているのは、そういう話でしょうか。
従業員はいません。事務所も借りません。介護報酬の請求もしません。
一人で、自分が動ける範囲で、必要としている方の役に立ちたい。
たぶん、そういう話だと思います。
前提にしている規模が、そもそも違います。
読んでも自分の話に思えないのは、当然です。
介護保険の枠の外で働くという考え方の全体像は、こちらにまとめています。
第2章:一人で始めるなら、要るものは驚くほど少ないです
最初に、要らないものから並べます。
あなたが介護の現場で見てきた手続きは、ほとんど要りません。
指定申請は、要りません
介護保険のサービスは、指定を受けた事業所でなければ提供できません。
人員の基準があり、設備の基準があり、運営の基準があります。
あの一式は、介護保険のサービスを提供するための決まりです。
保険外のサービスは、その外側にあります。
介護報酬を請求しないので、請求のためのソフトも要りません。
開業届は、先に出さなくて大丈夫です
「まず開業届を出さないと始められない」と思っておられる方がいます。
逆です。
国税庁は、開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)の提出期限をこう書いています。
事業の開始等の事実があった日の属する年分の確定申告期限まで
始めた年の確定申告までに出せば足ります。
つまり、届出は「始めてから」で構いません。
始まっていないうちに書類から入ると、書類だけが増えていきます。
1つだけ、時計が動くものがあります
青色申告をするつもりなら、そこだけ期限が短いです。
国税庁の記載はこうです。
その年の1月16日以後、新たに事業を開始したり不動産の貸付けをした場合には、その事業開始等の日から2月以内
事業を始めた日から2か月です。
急ぐ必要があるのは、ここだけだと思っておいてください。
第3章:ただし「何をしてもいい」ではありません
要るものが少ない、と書きました。
これは「自由になんでもできる」という意味ではありません。
指定基準がかからない代わりに、ほかの法律の線が、そのまま残ります。
そして、事業所という後ろ盾がなくなります。
職場では、線を越えないように仕組みが守ってくれていました。
個人で受けるときは、自分で線を知っておく必要があります。
具体的には、髪、マッサージ、爪と皮膚。
この3か所に法律の線があります。
3本の線がどこにあるのか、そして3本とも越えずに済む形は、別の記事に条文と国の通知まで含めて整理しました。
始める前に、一度読んでおいてください。
もう一つ。
いま施設や事業所に勤めながら考えておられるなら、就業規則の「副業禁止」で会社が本当に止められる4つの場合もあわせてご確認ください。
ここは、始める前に片づけておくところです。
第4章:本当の壁は、開業ではありません
ここまでで、手続きの話は終わりです。
正直に申し上げて、開業そのものは壁ではありません。
紙を出すだけです。
止まっているのは、そこではないと思います。
「お客さんを、どうやって集めるのか」
ここではないでしょうか。
そして、この不安があるあいだは、準備がいつまでも終わりません。
チラシをもう少し良くしよう。
料金表をもう少し整えよう。
もう少し勉強してから。
準備は、いくらでも増やせます。
第5章:順番が、逆になっています
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
多くの方が、こういう順番を考えます。
- 商品を決める
- 値段を決める
- チラシを作る
- お客さんを探す
仕事は「作る」ものだと思われています。
この順番だと、最初の1件までが、とても遠いのです。
そして多くの方が、その途中で止まります。
ところが、実際に始まっている方の話を聞くと、たいてい逆です。
先に何かを渡していて、あとから「お願いできませんか」と言われています。
作ったのではなく、頼まれています。
第6章:実際に、そうやって始まった方がいます
先輩フリー介護士の方の話を書きます。
その方がいま受けているお仕事は、大きく3つです。
- 病院への同行
- 認知症の方のご自宅への訪問
- 手芸教室
はじめの2つは、介護の仕事として想像がつくと思います。
分からないのは、3つ目です。
手芸教室は、介護の資格とも、介護の技術とも関係がありません。
これが、どうして仕事になったのか。
「人集めもするから、やってほしい」
本人にうかがいました。
返ってきた答えは、こうでした。
フラダンスサークルが解散することになって、皆さんへのお礼として小物をお渡ししたんです。
そうしたら、そのなかのおひとりが、どうしてもやってほしい、と。
人集めもするから、と言われて始まりました
もう一度、読んでみてください。
何も売っていません。
チラシを作っていません。
値段も決めていません。
「教室を開きます」とも言っていません。
サークルが解散する日に、お礼として小物を渡した。それだけです。
そして、いちばん大事なところ。
「人集めもするから」
お客さんを集めるところを、相手のほうが引き受けています。
第4章で書いた、いちばんの不安。
そこを、相手がやっています。
運が良かった、という話ではありません
順番を見てください。
- 先に、渡していた
- 相手のほうから頼まれた
- 集客も、相手がした
1番があるから、2番が起きています。
しかも1番は、仕事としてやったことではありません。
お礼です。
見返りを求めていないから、受け取った人のほうが何かを返したくなった。
念のため、はっきり書いておきます。
何もしなくても頼まれる、という話ではありません。
先に渡しているから、頼まれています。
最初の1件も、まったく同じ形でした
この方の、いちばん最初のお仕事の話です。
デイサービスで出会った方に、困りごとを話しておられた方がいたそうです。
その方に、こう話しただけでした。
今度、こういうことをしようと思うんです
返ってきたのは、この言葉でした。
「すぐにでも始めて」
ご本人は、こう答えています。
ちょっと勉強してから始めますね
そして、こう言われたそうです。
そんな勉強なんかしなくていいから、早く始めて
ここは、読み飛ばさないでください
「勉強してから」と言ったのは、始める側のほうです。
そして、それを止めたのはお客様のほうでした。
私たちは、いつも「まだ足りない」と思っています。
資格が。知識が。経験が。
けれど、頼みたいと思っている人から見ると、足りないのは準備ではありません。
始まっていないことです。
そして、もう一つ。
最初のお客様は、遠くにいませんでした。
もう出会っている方でした。
その方が困っていることを、すでに知っていた。
やったことは、「今度こういうことをしようと思う」と話しただけです。
同じことは、施設への営業でも起きています。
施設に断られたときにどうするかを書いた記事で、1件目がどこから来ているかを調べました。
そこでも、すべて「すでに知っている人」から来ていました。
第7章:介護の技術でなくても、入口になります
見落としてほしくないことがあります。
手芸は、介護のスキルではありません。
その方が持っていたのは、資格でも経験年数でもなく、「手芸ができる」でした。
フリー介護士というと、介護の技術で仕事をするものだと思われがちです。
けれど実際に見ていると、入口になっているのはこういうものです。
- 話を聞くのが上手
- 車の運転ができる
- 料理が得意
- 手先が器用
- 同じ地域に長く住んでいる
あなたが「これは仕事にならない」と思って数えていないものが、たぶん、いちばん近い入口です。
誤解のないように書いておきます
この方はいま、病院への同行も、認知症の方のご自宅への訪問もしておられます。
手芸教室だけをしているわけではありません。
入口が手芸だった、というだけです。
一度「あの人になら頼める」と思われた人のところには、別の相談も来るようになります。
第8章:では、明日からできること
手続きの話に戻ります。
やることは、この順番で十分です。
- すでに出会っている方に、「今度こういうことをしようと思うんです」と話す
- 頼まれたら、受ける
- 受けてから、開業届を出す(その年の確定申告までで間に合います)
- 青色申告をするなら、始めた日から2か月以内に申請する
1番が先です。
値段については、メニューに何を並べて、いくらにするかを別の記事にまとめました。
先に決めなくても大丈夫です。
やってみてから決めていい、という話も書いています。
訪問にかかる交通費やガソリン代をどう決めて、どう請求するかも、始めてから読めば間に合います。
第9章:まとめ
- 検索して出てくる開業ガイドは、事業所を作る人向けです。前提にしている規模が違うので、自分の話に思えなくて当然です
- 指定申請も、人員基準も、請求ソフトも要りません。あれは介護保険のサービスを提供するための決まりです
- 開業届は、始めてからで間に合います。国税庁は「その年分の確定申告期限まで」としています
- 期限が短いのは青色申告だけ。始めた日から2か月以内です
- ただし、法律の線は残ります。髪・マッサージ・爪と皮膚の3か所。事業所という後ろ盾がなくなるぶん、自分で知っておく必要があります
- 本当の壁は開業ではなく、「お客さんをどう集めるか」です。ここが不安なあいだ、準備はいくらでも増やせます
- 順番が逆になっています。商品→値段→チラシ→客探し、では最初の1件が遠すぎます
- 実際に始まっている人は、先に何かを渡していて、あとから頼まれています。お客さんを集めるところを、相手が引き受けてくれることさえあります
- 「勉強してから」と言ったのは始める側で、それを止めたのはお客様のほうでした。足りないのは準備ではなく、始まっていないことです
- 最初のお客様は、もう出会っている方でした。遠くを探さなくて大丈夫です
- 入口は、介護の技術でなくてかまいません。料理、運転、手先の器用さ、その土地に長く住んでいること。数えていないものが、いちばん近い入口です
書類がそろっていないから始められない、と思っておられるなら、そこは大丈夫です。
紙は、あとから出せます。
先に必要なのは、すでに出会っている誰かに、一言話しておくことだけです。
「介護と、その人の暮らしを分けない」という働き方について、順を追ってお伝えしています。
その考え方と、実際に活動している受講生の声、講座の内容と料金まで、1ページにまとめてあります。
出典
この記事は2026年8月時点の情報にもとづく一般的な内容です。届出の期限や青色申告の取り扱いは制度改正により変わることがありますので、実際の手続きは所轄の税務署または税理士にご確認ください。提供する内容によっては、美容師法・あん摩マツサージ指圧師法・医師法などの規定が関係します。個別の判断は、お住まいの地域の保健所等にご確認ください。記事中の事例は、ご本人の了解を得たうえで、氏名を出さない形で記載しています。



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