「ここは、そんな時間ないですよ」
施設へ介護美容の営業に行って、そう言われた方がいらっしゃると思います。
チラシを作って配っても、反応がない。
ご家族に説明しても、ぴんと来ていない顔をされる。
自分のサービスに価値がないのだろうか、と思い始めてしまう。
そこは、心配しなくて大丈夫です。
断られているのは、あなたのサービスの中身ではありません。
入口の順番が、逆になっているだけです。
先にお伝えします。
この記事は、美容師免許をお持ちでない方に向けて書いています。
介護のお仕事をされてきて、そのあとに介護美容を学ばれた方です。
美容師免許をお持ちで、訪問美容を事業にされる方には当てはまらない部分があります。
また、サービスを受けたいご家族向けの記事でもありませんので、ご注意ください。
1. 施設が断る理由
デイサービスで美容ケアを担当していた経験のある受講生の方が、こう話してくれました。
施設に手伝いに入って、利用者さんとのコミュニケーションを大切にしたいと伝えると、こう返ってくる。
ここは、そんな時間ないですよ
その方は、こう続けています。
もう、みんな気持ちが疲弊しちゃって、そんなことできないよって。
したくてもできないのか、やるつもりがないのか、、、
ちょっとよく分からないんですけど
本音は、たぶんこれです
私はこう見ています。
「美容やるぐらいだったら、あなた介護やってよ」
美容ではなく、現場の介護の人が欲しい。
人手が足りません。新しいことに手を広げる余力がありません。
そこに「美容ケア」という、一見すると本来の介護業務とは別枠に見えるものを持ち込もうとすれば、身構えられます。
「これ以上、仕事を増やさないで!」
自然な反応です。
効果がないから断っているのではありません
ここが大事なところです。
同じ方が、実際に美容ケアを取り入れた現場では、こうなっていました。
不穏だった方が落ち着いてきて
本当は楽になったみたいな
利用者さんの様子が落ち着くことで、スタッフの負担がむしろ減っていた。
つまり—
断られている理由は「効果がないから」ではなく、「いま新しいことを受け入れる余裕がないから」です。
もう一つの断り文句は「前例がありません」です
「時間がない」のほかに、よく返ってくる言葉があります。
前例がないので
これは、介護美容だけの話ではありません。
朝日新聞社が運営している介護のメディア「なかまぁる」に、お笑い芸人の方が介護施設でレクリエーションを行う活動を取り上げた記事があります(2020年8月29日)。
その中に、こう書かれています。
前例がないから受け入れられない
そう言われて断られることが多かった、と。
テレビに出ている芸人さんでも、同じ言葉で断られています。
考えてみてください。
知名度も、人を楽しませる技術も、あちらのほうが上です。
それでも、断られます。
つまり、断られる理由は、あなたが持っているものの中にはありません。
「前例がない」は、中身への評価ではありません
この言葉が出てくるのは、決めた人が責任を負うからです。
前例のないものを入れて、もし何かあれば、受け入れを決めた職員の責任になります。
だから、答えは「いいえ」になります。
安全な答えだからです。
ここも、あなたの説明が足りなかったからではありません。
そして、この2つは同じことを言っています。
- 「そんな時間ないですよ」 ── 余力がない
- 「前例がないので」 ── 責任を負いたくない
どちらも、あなたのサービスの中身を見ていません。
構造の問題です。あなたの問題ではありません。
2. 美容師の「訪問美容」と、あなたの「介護美容」は別物です
ここから先を読む前に、一つ整理させてください。
ネットで「介護美容 施設 営業」と調べると、出てくる記事の多くは美容師の方向けです。
- 何百件も施設をまわった話
- 施設との契約書の作り方
- 商談のロールプレイング
読んでも、どこかしっくり来なかったのではないでしょうか?
当然です。立っている場所が違います。
できることが違います
美容師免許をお持ちの方は、カット・パーマ・カラーができます。
あなたは、できません。
そこは変わりません。
詳しくは美容師免許がなくてもできること・できないことにまとめました。
法律が関係しますので、できること、できないことに区別に自信がない方は、ぜひ一度ご覧ください。
施設に売るものが違います
美容師の方が施設に営業に行くとき、売るのは「美容サービス」です。
すると施設は、こう考えます。
美容の時間を、新しく作らないといけないのか
今までなかった時間枠を、作らなければなりません。
だから上司の決裁が要ります。
人手の話になります。この忙しい時に…
そして—断られます。
新しい時間枠を作ってもらう必要がありません
ここが、いちばん大事なところです。
美容の技術しか持っていない方は、介護のお手伝いからは入れません。
介護の現場を知らないからです。
あなたは、そこから入れます。
美容師免許がないことは、弱みではありません。
介護から入れる、という強みです。
そして、その入り方を次の章から書きます。

3. 「介護美容」という言葉が届いていません
もう一つ、もっと手前の問題があります。
「介護美容」という言葉が、伝わっていません。
おばあちゃんにも、娘さんにも通じません
考えてみてください。
要介護のおばあちゃんに「介護美容をやらせてください」と言って、伝わるでしょうか。
娘さんに「介護美容のサービスです」と説明して、何のことか分かるでしょうか。
まず、分かりません。
介護の業界では浸透してきていますが、業界の外の人はまだ知りません。
この点は、受講生のリーフレットをみんなで見た回でも、同じ指摘が出ていました。
だからチラシに書いても、意味がありません
よくあるのが、こういうチラシです。
介護美容サービス
今ならキャンペーンで割引
これは、まったく効きません。
何のサービスか分からないものが割引になっていても、頼む理由にならないからです。
値引きは、欲しいものが決まっている人にしか効きません。

4. 資格を前に出したくなるのは、なぜでしょうか
ここは、正直に書きます。
資格を取ると、その資格を前に出したくなります。
時間もお金もかけて取ったものです。
当然の気持ちだと思います。
けれど、一度だけ、相手の側から見てみてください。
お客さまは、資格が欲しいわけではありません
ご家族が欲しいのは、資格ではありません。
欲しいのは、こういうことです。
- おばあちゃんの状態が、少しでも良くなること
- 家族みんなで、平凡で平和な日々を過ごせること
これだけです。
そして——
それは、介護の現場を知っているあなたに、できることです。
美容師さんにはできないことです。
できるのに、伝わっていない…
それだけの話です。

5. だから、入口を変えます
私が受講生の方にお伝えしているのは、この順番です。
「介護美容をやらせてください」とは言いません
代わりに、こう聞きます。
介護のことで、何かお困りのことはありませんか?
まず、ここから入ります。
そして、出てきた困りごとの中から、簡単なことを引き受けます。
お買い物かもしれません。お食事かもしれません。通院の付き添いかもしれません。
そこから始めます。
これは、美容師の方には言えない一言です。
介護の現場を知っているから言えます。
そのお世話の中で、持っているスキルを使います
訪問して、おばあちゃんのお世話をする。
その時間の中で、手を整える。髪を整える。少しお化粧をする。
これが、あなたが学んできたことです。
メニューに「介護美容」と書かなくても、やっていることは変わりません。
これは、隠すことではありません
念のため、はっきり書いておきます。
だますわけでも、隠すわけでもありません。
相手に伝わる言葉で入る、というだけのことです。
聞かれれば、学んできたことは全部お話しすればいい。
順番の話をしています。
先に「介護美容」と言うと、「必要ありません」と言われます。
先に「お困りごと」と聞くと話が続く。
相談に乗って欲しいと思う。
それだけです。
6. すると、何が起きるか
実際に起きていることを書きます。
きれいにしてもらうことは、大切に扱われることです
髪を整えてもらう。爪をきれいにしてもらう。手に触れてもらう。
これは「人として」「女性として」大切に扱われる経験です。
年を重ねても、大切に扱われたい気持ちは変わりません。
ご家族が手を焼いていた方でも、様子が変わります
認知症があって、ご家族が対応に困っておられる方。
そういう方でも、きれいにしてもらう時間を持つと、落ち着かれることがあります。
そして、落ち着けば、ご家族の負担が減ります。
気がつくと、やりたかったことが起きています
おばあちゃんがきれいになって、喜んでくださる。
ご家族が、少し楽になる。
これが、あなたが介護美容を学んだときに、やりたかったことではないでしょうか?
入口の言葉を変えただけで、行き先は同じです。
そして、この形なら美容師法などの法律の線にも触れません。
売っているのが施術ではなく、介護のお手伝いだからです。

7. 施設は、正面から営業しなくていいです
最初の話に戻ります。
施設に断られたからといって、このサービスに需要がないわけではありません。
個人のご家族に向けた話と、施設という組織に向けた話は、まったく別です。
受講生の「1件目」がどこから来ているか
最近一年間の記録を振り返ったところ、こうなっていました。
- セミナーで一緒だった方からの紹介
- 元の職場。辞めるときに「これからこういうことがしたい」と伝えておいたら、保険外で対応できないかと連絡が来た
- 友人。世間話の中で「いくらでやってるの」と聞かれたところから
- ケアマネジャー経由。ケアマネさんが、ご家族にチラシと名刺を渡してくれた
4件とも、SNSでも広告でもありません。
4件とも「すでに知っている人」から来ています。
そして4件とも、事前に「私はこれをやります」と、誰かに言ってありました。
介護の現場にいたことが、ここでも効きます
元の職場、元の同僚、知っているケアマネさん。
美容師の方には、この人脈がありません。
あなたには、あります。
そして、介護現場の大変さが分かるので、共感しあえる点が多い。
つまり、話がしやすいのです。
「売り込む」のではなく「言っておく」
施設に正面から営業をかけようとすると、決裁が要ります。人手の問題にぶつかります。
けれど、ケアマネさんが1枚のチラシをご家族に渡すのに、決裁は要りません。
チラシと名刺は、新規開拓の道具ではありません。
「言っておく」ための道具です。
施設に断られても、その施設の人に「私はこれをやっています」と伝わっていれば、それで十分な場合があります。
断られたことと、知ってもらえたことは、別です。
施設としてはあなたの介護美容は不採用でも、利用者さんや家族に伝えてもらえる可能性があります。
その時には、個人的に行う、また訪問して行うということも可能です。

8. 「それなら、ボランティアで」と考える前に
断られたあと、多くの方が同じことを考えます。
お金をいただかなければ、受けてもらえるのではないか。
実際にそうされた方が、こう書いておられました。
ボランティアですら、お断りされました
そして、その理由をご自分のせいにしておられます。
説明が足りなかった。準備が足りなかった。自分が至らなかった。
そこは、違います。
施設には、すでに無料の人が並んでいます
ここを知らないまま「無料なら」と考えると、外れます。
社会福祉協議会などに、ボランティアとして登録している方が、たくさんいらっしゃいます。
お車代くらいで来てくださる方たちです。
無料でやっている人のほうが、圧倒的に多いのです。
だから施設から見ると、「無料です」は差になりません。
すでに間に合っているところに、もう一人並んだだけです。
無料にしても、施設の手間は減りません
1章に戻ります。
施設が断る理由は、お金ではありませんでした。
いま新しいことを受け入れる余力がない、という話でした。
無料になっても、施設がやることは変わりません。
- 時間枠を作る
- 職員を付ける
- ご家族に説明する
- 何かあったときの責任を負う
減るのはお金だけで、手間はひとつも減りません。
だから、無料にしても答えが変わらないのです。
あなたの説明が足りなかったからではありません。
むしろ、無料で入ると、あとが動かなくなります
一度ボランティアとして入ると、次に「今回から有料で」とは言い出しにくくなります。
私は、最初にこう伝えるようにしています。
ボランティアではやりません
冷たく聞こえるかもしれません。
ですが、生活のためにやっていることです。
先に言っておくほうが、あとで気まずくなりません。
では、どこへ行くか
無料の方がたくさんいる、と書きました。
ただ、その方たちが行っていない場所があります。
ご自宅です。
ボランティアで施設に来ている方が、個人のお宅に伺うことは、まずありません。
デイに通うほどではない方が、家にいます
デイサービスを使うほどではない。まだお元気。
でも、家に一人でいると、気持ちがふさいでくる。
そういう方が、地域にいらっしゃいます。
こう言うと、話が通ります。
そういう方とのコミュニケーションのために、私はしたいんです
施設でまとめて10人を相手にして5,000円、という話とは別の場所です。
お一人のお宅に伺って、その方の分をいただく。
そのほうが、続きます。
9. まとめ
- 施設が断るのは、効果がないからではありません。
いま新しいことを受け入れる余力がないからです - 本音は「美容やるぐらいだったら、介護やってよ」。
現場が欲しいのは介護の人手です - もう一つの断り文句は「前例がありません」。
テレビに出ている芸人さんが施設にレクを持ち込もうとしても、同じ言葉で断られています。これは中身への評価ではなく、決めた人が責任を負うという話です - 美容師の訪問美容と、あなたの介護美容は別物です。
調べて出てくる記事の多くは美容師向けなので、しっくり来なくて当然です - 美容師の方は「美容の枠」を作ってもらう必要があります。
あなたは要りません - 美容師免許がないことは弱みではありません。
介護から入れる、という強みです - 「介護美容」という言葉は、業界の外に届いていません。
おばあちゃんにも娘さんにも通じません - お客さまは資格が欲しいのではありません。
おばあちゃんの状態が良くなること、家族が平和に過ごせることが欲しいのです - 入口を「介護でお困りのことはありませんか」に変える。
これは美容師の方には言えない一言です - そのお世話の中で、学んだスキルを使う。
隠すのではなく、伝わる言葉で入るだけです - 1件目は「すでに知っている人」から来ます。
元の職場、元の同僚、知っているケアマネさん。この人脈は、美容師の方にはありません - 「ボランティアなら」は効きません。
施設には無料で来る方がすでに並んでいます。無料にしても、施設の手間はひとつも減りません - 無料の方が行っていないのは、ご自宅です。
デイに通うほどではない方が、家にいらっしゃいます
断られると、自分のサービスに価値がないように思えてきます。
そうではありません。
相手が分かる言葉で、まだ話しかけていないだけです。
伝わっていないだけなんです。

なお、メニューに何を並べて、いくらにするかも、まったく同じ考え方でできています。
施術名を並べるのではなく、生活の困りごとを並べます。
資格を取ったのに仕事にならない理由もあわせてお読みいただくと、全体像がつかめます。
「介護と美容を分けない」という働き方について、順を追ってお伝えしています。
その答えと、実際に活動している受講生の声、講座の内容と料金まで、1ページにまとめてあります。
この記事は2026年8月時点の情報にもとづく一般的な内容です。美容師免許をお持ちの方が訪問美容を事業として行う場合は、美容師法および都道府県の条例にもとづく手続きが別に必要です。記事中の事例は、ご本人が特定されないよう内容を一般化しています。個別のサービス内容や契約については、施設・事業所ごとに取り扱いが異なりますので、実際の判断はそれぞれの相手先にご確認ください。


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